居酒屋「福寿」72年の歴史に幕 青森・三戸町 店主・佐々木さん、充実感と寂しさ

常連客から贈られた花束を手にする佐々木春美さん(中央)と明美さん(左)、青木さん

 青森県三戸町二日町の和風居酒屋「福寿」が9月いっぱいで72年の歴史に終止符を打った。父が起こした店を、長女で店主の佐々木春美さん(72)と妹の明美さん(68)らで切り盛りしてきたが、家族の介護や体調面の不安もあり閉店を決めた。多くの人に親しまれた店らしく、最終日も遅くまで店内は満席。春美さんは「店を閉める悔いはないけれど、これまで会えた人に会えなくなるね」と、やり遂げた充実感の中に寂しさもにじませた。

 「長い間お疲れ様でした」「ありがとうございました」。店内には、メッセージとともに常連客らから贈られたたくさんの花が飾られていた。「今日は時間無制限」と明美さん。本来の閉店時間の午後9時を過ぎても次々と注文が続き、営業は日付を越えた。

 1951(昭和26)年に父・佐々木義一さん、母・静子さんが始めた店は、手作りの味が自慢。「料理を出すまで時間はいただくけど、味には自信があります」と明美さん。父が作った自家製のたれはどんな料理にも合い、姉妹はさらに工夫を凝らし、父のたれをベースに、時代に合わせてメニューを増やしてきた。

 父が67歳で亡くなり、以降母が守った店を春美さんが継いだのは98(平成10)年ごろ。春美さんが主に接客を、明美さんと手伝いの青木緑さんが主に厨房(ちゅうぼう)を担当した。「子どもの頃は、手伝いをさせられたこともあり、家業が嫌だった。でも今は、多くの出会いをくれたこの店に感謝しています」と春美さん、明美さん。お客とのいつもの何げない会話が、この上なく大切な時間と実感し、時に涙ぐむ場面も。帰りしなに、客から贈られる「ありがとう」の言葉に「こちらこそ」と深々と頭を下げて見送った。

 営業最終日、予約席には明美さんがお客の顔を思い浮かべながら手書きした感謝のメッセージが置かれていた。妻を連れてカウンターに座った男性は、付き合い始めた頃に2人で初めて訪れたのが福寿という。「店の歴史の半分が、自分の歴史。店のカウンターで聞く話は勉強になった。ここがなくなるのは本当に寂しい」と言う。小上がりで同級生と酒を酌み交わしていた飯塚克則さん(52)も「二十歳ごろから30年以上通った店」と名残惜しげに最後の料理を味わった。

 閉店後、店名は常連客でもあった町内の50代男性が引き継ぐという。「私たちの福寿はこれで終わり。新しい店主には、新しい福寿をつくってほしい」と春美さん、明美さんはエールを送った。

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