「人手不足」倒産 4-9月は過去最多の82件 要因別は、「求人難」と「人件費高騰」が急増

~ 2023年度上半期(4-9月)「人手不足」関連倒産の状況 ~

2023年度上半期(4-9月)の人手不足に起因する「人手不足」関連倒産は、過去最多の82件(前年同期比164.5%増)で、前年同期の2.6倍に急増した。
要因別では、「人件費高騰」が30件(前年同期5件)と前年同期の6.0倍、「求人難」が34件(同13件)で同2.6倍と大幅に増加した。求人と退職防止など、人材確保のための賃上げが経営体力がぜい弱な企業の資金繰りを圧迫し、倒産に追い込まれる企業が増えていることがわかった。

年度上半期の産業別では、最多が飲食業(8件)を含むサービス業他の25件(前年同期比127.2%増)。次いで、建設業(同171.4%増)と運輸業(同533.3%増)が各19件の順。
サービス業他や建設業、運輸業などは、コロナ禍前から慢性的な人手不足が続くなか、コロナ禍で一段と深刻さが増している。さらに、業績回復の遅れも重なり倒産に至るケースが際立つ。

2023年10月から全国的に最低賃金の引き上げが実施される。全国平均で過去最高の43円の引き上げとなり、首都圏や愛知、大阪では最低賃金が1,000円を超える。ただ、すでに時給1,000円を超えても人手不足の解消めどが立たない企業もあり、人件費上昇の影響はさらに広がりをみせる。

人材確保の前提として賃上げが必須になるが、物価上昇による収益負担に加え、賃上げのコストアップの影響は深刻で、企業倒産や休廃業などを加速させる懸念が高まっている。

※本調査は、2023年度(4-9月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)


年度上半期の「人手不足」関連倒産82件、年度上半期では2019年度を抜き過去最多

2023年度上半期(4-9月)の「人手不足」関連倒産は82件(前年同期比164.5%増)で、前年同期の2.6倍に急増した。年度上半期では2019年同期の81件を超え、調査を開始した2013年以降で最多を記録した。
経済活動の活発化に伴い、人手不足が深刻になっている。「人手不足」関連倒産の内訳は、「求人難」が34件(前年同期13件)、「人件費高騰」が30件(同5件)、「従業員退職」が18件(同13件)だった。「人件費高騰」は前年同期の6.0倍、「求人難」は同2.6倍に急増しており、人材確保のための賃上げは不可避となっている。
コロナ禍では、国内外の経済活動が縮小した。そのため人手不足感は弱まり、2020年同期42件、2021年同期26件、2022年同期31件と、「人手不足」関連倒産は低水準で推移した。だが、経済活動が本格化すると一転して、人手不足が顕在化した。資金力の乏しい企業は、人材流出だけでなく、新たな人材確保も難しく、2023年年間でも「人手不足」関連倒産は過去最多件数を更新する可能性がある。

【要因別】人件費高騰と求人難が急増

要因別件数では、「人件費高騰」の30件(前年同期比500.0%増、構成比36.5%)で、前年同期の6.0倍に急増した。
また、「求人難」が34件(同161.5%増、同41.4%)で、前年同期の2.6倍と大幅に増加した。
「従業員退職」が18件(前年同期38.4%増)で、4年ぶりに前年同期を上回った。
経済活動が活発化するなかで、企業での人手不足感が一段と強まっていて、人材確保のための賃上げが不可避となっている。
ただ、経営体力がぜい弱な企業ほど、賃上げが資金繰りに大きな影響を及ぼしかねない。特に、賃上げが出来ない企業では、従業員の退職による人材の流出が進む一方、事業維持のために人材を集めることも難しくなっている。

【産業別】運輸業が前年同期の6.3倍

産業別は、10産業のうち、農・林・漁・鉱業、金融・保険業を除く8産業で前年同期を上回った。
最多は、サービス業他の25件(前年同期比127.2%増、前年同期11件)。このうち、飲食業(2→8件)、 生活関連サービス業,娯楽業(1→7件)などで前年同期を上回った。
次いで、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年960時間に制限される2024年問題を前に、人手不足が顕著な運輸業(前年同期比533.3%増、前年同期3件)と、コロナ禍前から慢性的な人手不足に陥っていた建設業(同171.4%増、同7件)が各19件と続く。
このほか、小売業が6件(前年同期比100.0%増)で、2年ぶりに前年同期を上回った。また、前年同期ゼロだった不動産が1件、情報通信業が3件と、それぞれ発生した。
一方、農・林・漁・鉱業と金融・保険業が、ともに3年連続で発生しなかった。
業種別では、一般貨物自動車運送業が17件(前年同期3件)と急増し、唯一、10件を超えた。このほか、前年度は発生がなかった訪問介護事業4件、建築リフォーム工事業と普通洗濯業が各3件。とび工事業、内装工事業、受託開発ソフトウェア業、ラーメン店、酒場,ビヤホール、配達飲食サービス業、エステティック業が各2件、土工・コンクリート工事業、タイル工事業、塗装工事業、一般電気工事業、すし・弁当・調理パン製造業、合板製造業、かばん製造業、アルミニウム・同合金プレス製品製造業、ロボット製造業、アニメーション制作業、貨物軽自動車運送業、こん包業、かばん・袋物卸売業、婦人服小売業、各種食料品小売業、菓子小売業、電気機械器具小売業、調剤薬局、不動産代理業・仲介業、広告業、食堂,レストラン、日本料理店、劇団、学習塾、有料老人ホーム、電気機械器具修理業、労働者派遣業が各1件。

【形態別】破産が9割超

形態別は、「破産」が78件(前年同期比160.0%増)で、2年連続で前年同期を上回った。構成比は95.1%(前年同期96.7%)と、大半を占めている。
一方、再建型の「民事再生法」は前年同期と同件数の1件だった。
業績が厳しい企業では、資金余力も乏しく、新たな従業員を採用する余裕がなく、従業員をつなぎとめる福利厚生の充実や待遇向上を行うことも難しい。人手不足が一因となり、稼働率低下や失注などで業績改善も進まず、事業継続を断念して破産を選択するケースが増えている。

© 株式会社東京商工リサーチ