経験者が語る「事実婚」のメリット・デメリット 生活、子育てに不便さはないものの、やはり大きいのは…

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは、日本の“事実婚事情”について議論しました。

◆結婚すると面倒なことが多い!?

今年3月に元・水曜日のカンパネラで人気アーティストのコムアイさんがSNSで妊娠を発表。7月にペルーのアマゾンで第1子を出産しました。パートナーと籍を入れない"事実婚”を選択したことに世間からは「反対ではないけど事実婚をしたいとは思わない」、「今どき普通」、「それもひとつの形」など賛否の声が。

そもそも事実婚とは、法律上の婚姻手続きを行わず、同じ戸籍に入らない状態で夫婦と同等の関係を持った状態のこと。

今回は30歳で結婚し、3年後に離婚。36歳で現在のパートナーと事実婚し、1児の母でもある漫画家の水谷さるころさんを迎えて、日本における事実婚のリアルな現状を伺いました。

水谷さんは事実婚について「事実婚は、人が選ぶものなので誰かに文句を言われたりするようなことではなく、向いている人がやればいいと思う」と率直な思いを語ります。そして、事実婚を選択した理由のひとつとして「名前の問題」を挙げます。

フリーランスとして働いていた水谷さんにとって、結婚して改姓するとなると、銀行口座はもちろん、仕事で関わる企業への名義変更依頼などいろいろと面倒なことが多く、「結婚するなら苗字は変わるものという気持ちでいたけど、思っていた以上に大変だった」と水谷さん。

結婚するまで気づかなかったものの、保守的な結婚観を持っている人が多いことも痛感。「結婚したんだから仕事は頑張らなくていいでしょ」、「夜の打ち合わせやハードな仕事は旦那さんの許可が必要では?」といったことを言われたことを打ち明けます。

キャスターの堀潤は「旦那さんの許可!?」と驚いていましたが、キャスターの豊崎由里絵は大きく頷き「今も言われたりする」と納得。水谷さんはその他にも「ハードな仕事はお願いするのをやめようと思っていた」「一番ショックだったのはギャランティの金額交渉をするとき、安めの金額を提示されて『結婚されたからいいじゃないですか』と言われた」と告白すると、これには堀だけでなく豊崎も驚きの表情を浮かべます。

放送作家の野々村友紀子さんは、結婚して夫の姓に入っているものの、仕事は旧姓のまま。「便宜上、いろいろめちゃくちゃ面倒くさいですから」と水谷さん同様、改姓の煩雑さを理解している一方で、結婚した当初は「結婚したら当たり前に同姓になるものだと思っていた」と振り返ります。

また、当時は好きな人と同じ姓になることに対する憧れもあったそうですが、今となっては「(クレジットカードの名義変更なども大変で)女性の負担が大きいのは、すごく感じる」と率直な印象を語ります。

現在25歳の「NO YOUTH NO JAPAN」代表理事の能條桃子さんは「友人との会話で結婚の話題になると、"法律婚(通常の結婚)か事実婚か”という話になるぐらい、今は選択肢のひとつという認識が広がっている」と事実婚が浸透している実感を述べます。

能條さん自身、今の社会のまま結婚となったら事実婚を選ぶであろうと言い、その理由は苗字を変えたくないから。さらに「同性同士で結婚できない不平等な制度のなかで、自分がそこに加担するのは嫌。周りでも今は事実婚も珍しくない」との意見が。

経済アナリストの池田健三郎さんは「原則、多様性を認めることは基本」としつつ、事実婚に関してはデータ、調査が少ないことを問題視。そうしたなかでIBJが2016年に行った調査を引き合いにし、結果として総論賛成・各論反対と池田さん。つまり事実婚は認めるが、自分はしないという意見が多数。とりわけ女性のほうがネガティブな意見が多く、その背景として「ひとつは親権の問題。家事・育児負担が女性にいき、事実婚となると母親が大変なことになる」と推察します。

◆事実婚のデメリットは? 法律婚との違いは?

法律婚と事実婚における、法的な違いを比較してみると、法律婚は戸籍上の姓を夫婦どちらかに統一しますが、事実婚はその必要はありません。そして、社会保険は、法律婚も事実婚も夫婦どちらかの扶養に入ることが可能です。しかし、税金の配偶者控除については、法律婚はできるものの、事実婚はできず。また、遺産相続も法律婚はでき、事実婚の場合は遺言を書いておく必要があります。さらに、子どもの認知に関しては、法律婚は自動的に夫婦の子になるものの、事実婚は共同親権を持てません。

世界を見渡すと事実婚に優しい国もあり、その代表格がフランス。その理由のひとつに"PACS(民事連帯契約)”という制度があります。これは事実婚でも同性婚でもできる共同生活の契約で、結婚と同様の社会保障・税金などの優遇措置が受けられるもので、この制度のあるフランスでは事実婚カップルの間に生まれた婚外子が出生の約60%(※日本は約2.3%)を占めています。

大妻女子大学の阪井准教授は、PACSができた背景について「同性パートナーの保護」があり、それが異性のカップルにも広がったと推察。そして、多様化・流動化する社会ではPACSのような制度のほうが合理的だと考える人が世界的に多く、日本でも事実婚などが制度的に保障されれば出生率上昇に繋がる可能性があるとの見解を示しています。

水谷さんは、日本の事実婚のデメリットに関して「基本的には共同親権がないことが一番と言われていて、あとは税法上全く控除とかがないこと。ただ、社会保障などはあるので、経済的に独立している男女2人というのであればそこまで大きなデメリットはない」、子育てについても「私は事実婚をしている限りは育てにくい、不便だと思うことはない」と実感を語ります。

不便はないとなると「逆説的だが、何かを変える必要がない、現行のままでもいいのでは?」と堀が質問しますが、そういうわけでもないそう。水谷さんは「事実婚をしている理由は、妥協の産物。選択制夫婦別姓ができないので別姓婚ができないことが一番で、その理由で事実婚せざるを得ない人が多い」と事実婚を選ぶ根本にはやはり名前の問題が大きいと示唆。

そして、「法律婚は"安心お任せパック”で、事実婚は"カスタマイズ婚”。カスタマイズプランでいらないところだけ取る感じ。同性婚は強制だが、別姓婚がしたいから仕方なくカスタマイズしている」と水谷さんなりの法律婚と事実婚の違いを語ります。

◆日本の婚姻制度はどうしていくべきか?

最後に今回の議論を通して、日本はどうしていくべきなのか各自発表。野々村さんは「結婚しない=したくないではなく、したい気持ちはあるのに、今の法律婚の中ではしたくないという人も多い」と若者の結婚に関するジレンマを考慮し、「結婚したい人、結婚する人の権利を奪うのではなく、当たり前の身分保障と安心が全員に行き渡るように、制度を選択できるようにするべき。別姓も同性婚も法律婚の制度の枠組みのなかでできるように」と婚姻制度の改革を望みます。

能條さんは「性別役割分業前提の制度変更」と主張。今の婚姻制度は、例えば扶養控除などそもそも専業主婦がいることを前提に作られてきたため、そうした背景を見直し、根本から考えていかないと変わらないと懸念。

しかし、社会の慣習を変えるのは一筋縄ではいきません。では、どうすればいいのか。能條さんは制度変更による人々の意識の変化に期待しつつ、「日本でもPACSのようなものができれば。制度ができることで人々の認識が変わり、ローカルルールも変わっていくと思う」と話します。

経済アナリストの池田健三郎さんは、問題の根本、さらには糸口として「EBPM」、「保守VSリベラル」、「子ども目線」の3点を列挙。まず、EBPMとは証拠に基づいた政策作りのことで、事実婚に関しても「データをしっかりと調べてから制度設計をすべき。基本的なところに立ちかえることが必要」と力説。

そして、結婚を巡る制度は保守とリベラルの戦いと見られることが多いものの、それも時代とともに変化していることを示唆し、最後に重要なこととして「大人が議論しているが、本当に子ども目線で議論をしているのか。大人の都合だけではまずい、子どもの目線を忘れてはいけない」と注意を促します。

最後に水谷さんは「選択的夫婦別姓、同性婚、または日本版PACSの法制化」を熱望。自信を含め「選択的夫婦別姓ができないから妥協として事実婚をしている人は非常に多い」と改めて主張し、「事実婚ありなしを考える前に、致し方なく事実婚をしている人たちを結婚させてあげてほしい」と訴えます。さらには「一方で事実婚を積極的にやっている人たちにはPACSのようなものがあれば」と望んでいました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 6:59~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

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