社説:配達員労災認定 実態を直視した判断だ

 インターネット通販大手「アマゾン」の配達を請け負う男性運転手が、業務中に負ったけがが労働災害と認定された。

 ネット通販を支える配達員の多くは業務請負で働いている。形式的には個人事業主だが、実際には業務用アプリなどを通じて発注元から細かく指示を受けている。

 労働基準監督署は今回、そうした実態にある配達員は事実上の「労働者」と認めた。

 ITの発達で働き方は多様化している。フリーランス保護政策が始まっているが、逆に契約書で労働者としての権利を縛ろうとする企業もあり、実態に追いついているとは言いがたい。国はこれを機に、包括的な対策を打ち出す必要がある。

 労災認定されたのは、アマゾンから委託を受けている運送会社と業務委託契約を結び働く60代の男性だ。配達中に階段から転落し、腰の骨を折る重傷を負った。

 男性と配達員の所属する労働組合は昨年、アマゾンからスマートフォンアプリを通じて管理され、働き方の実態から会社に雇用される労働者と同じとして、横須賀労基署に労災申請していた。

 フリーランスが事実上の労働者かどうかは、仕事の裁量権や指揮命令、勤務時間の実態から判断することが労働関係法令の運用で定着している。

 今回の労基署判断はこうした基準を踏襲したものとみられる。一方で、すべてのフリーランスの実態に対応するかは不透明だ。

 国は今年4月、個人事業主らとの取引の適正化やハラスメント対策を盛り込んだフリーランス新法を成立させた。

 労働安全衛生法の適用や、労災保険への「特別加入」が可能となった。俳優など独立性の高いフリーランスの加入が既に始まっている。

 しかし、配達員などとの契約書に、最初から労働者としての権利を認めない条項などを盛り込む企業も出てきている。

 アマゾンなどは下請け企業の問題として労働組合との交渉にも応じていない。

 労働法の規制や社会保険料の負担を何とか免れたいという狙いが透けて見える。

 フリーランス新法成立時の国会付帯決議には「偽装フリーランス」の保護のため十分な体制整備を図ることが盛り込まれた。

 働き方の実態を反映させる新たな基準づくりなど、幅広く保護する抜本的な対策が急がれる。

© 株式会社京都新聞社