社説:米下院議長解任 世界への悪影響を憂う

 米下院は、共和党のマッカーシー議長に対する解任動議を賛成多数で可決した。

 解任は米議会史で初めてだ。下院多数派を握る共和党の内部対立が、前代未聞の事態に発展した。

 下院議長は、大統領死亡時などの権限継承順位が副大統領に次ぐ要職であり、衝撃は大きい。

 今後の後任選出や予算審議でも混乱は長引きかねず、世界経済やウクライナ情勢への悪影響を深く憂慮せざるをえない。

 解任動議は、共和党の保守強硬派のゲーツ議員が提出した。下院で共和、民主両党の勢力は伯仲しており、採決は同調する強硬派ら8人に加え、民主党の全出席者208人が賛成に回って決した。

 共和党内の造反は、新年度予算が通らず政府機関が閉鎖するのを避けるため、9月末に成立した「つなぎ予算」が引き金となった。強硬派が要求していた大幅な歳出削減が盛り込まれず、マッカーシー氏が民主党と協力したことに強く反発した。

 強硬派は今年1月の議長選出時も反対し、計15回も投票をやり直す異常事態を招いた。ゲーツ氏が心酔するのがトランプ前大統領である。返り咲きへの党候補指名争いに向け、背後から糸を引いているとの見方が根強い。

 解任成功で強硬派が発言力を強めるのは必至だろう。後任には対立を調整する指導力が求められるが、適任者が見当たらないともいわれる。先は見通せない。

 解任賛成に回った民主党の責任も重い。「敵失」に乗じ、次男のビジネスを巡るバイデン大統領の弾劾訴追調査を封じる狙いもあるとみられる。再選に向けた党利党略は、国民に見透かされよう。

 つなぎ予算は11月中旬までで、新たな予算が成立しなければ政府機関の危機が再来する。

 米国内だけに影響はとどまらない。つなぎ予算にはウクライナ支援費が盛り込まれておらず、確保できなければ2カ月程度しか支援が続かないと見られている。

 ロシアへの反転攻勢を進めるウクライナにとって大打撃で、米欧中心の対ロシア包囲網にほころびが生じかねない。

 米国債の信用にもマイナスだ。売られて金利が上昇すれば、日米の金利差の拡大から円安のさらなる進行もあり得る。

 国際社会の先導役の米国が内向きの抗争に明け暮れていては、世界の分断は深まるばかりだ。乗り越えていく民主主義の底力が試されているとの自覚を求めたい。

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