意識あるまま開腹…獣医の証言が如実に示した犬たちの激しい痛み 松本市ペット業者裁判、第6回公判【杉本彩のEva通信】

公判傍聴後、地元放送局の取材にこたえる杉本彩さん
第6回公判が行われた長野地方裁判所松本支部

劣悪な環境で約1,000頭もの犬の繁殖を続けていた「アニマル桃太郎」。その元代表百瀬被告と、従業員の男による動物虐待事件は、2021年11月に逮捕されてから、このコラムでも公判の内容をお伝えしてきた。先月9月22日には第6回公判が行われ、当協会Evaは、今回も傍聴のため長野地方裁判所松本支部へ向かった。今回は非常に重要な検察側の証人が証言台に立つことから、その内容に注目した。今回の証人とは、警察と一緒に家宅捜索に入った法獣医学のエキスパートである。これで被告の嘘と残虐性があらわになるはず、と期待した。

獣医師免許のない被告人が、犬に対してどんな残酷な行為を行なっていたか、改めて記しておく。繁殖施設内にて無麻酔で妊娠犬の腹をメスで裂き、仔犬を取り出していた。公判では、その様子を悪びれることもなく、「母犬と仔犬を救うためだった」と無罪を主張。罪の意識を微塵も感じさせない発言を繰り返した。それどころか、自分の手技がまるで優れているかのように、その手順を流暢に説明した。これまでの公判では、被告人も元従業員も弁護人も、獣医療の専門家ではないのに、「手術のとき大抵の犬は動いてなかった」とか、「そんなに痛がっていなかった」とか、「陣痛で切開の痛みは感じていない」とか、素人でも違和感を持つような供述を続けたが、今回その供述をすべて覆すことになった。

「アニマル桃太郎」の犬を鑑定した獣医師は、帝王切開は獣医師が行う医療行為であり、子宮から胎児を取り出す非常に侵襲性の高い痛みを伴う手術であると証言している。特に印象的だったのは、弁護側が被告の行為を、「帝王切開」と表現したことに対して、帝王切開は医療行為であり、被告の行為は「腹部切開」だと指摘したことだ。それについては、裁判官から質問にだけ答えるようにと注意が入ったが、その通りだと胸の空く思いだった。

被告は手術の際、薬剤を散布していたというが、獣医師によると、通常は器具も全て滅菌し、術者は手指を消毒し、術着、ガウンを着用し、マスク、グローブ、帽子を装着し行うものであるという。切開部分を滅菌処理してから腹部切開をする。滅菌されていない場合、感染症を起こし、膿んだり、敗血症になるなど生命を脅かすリスクがある。獣医師によるこれらの証言の通り、滅菌処理を行わず負わせた傷で、多くの犬が苦しんだ。

さらに獣医師の証言は続く。帝王切開には、鎮静、麻酔、術後の痛み管理である鎮痛が必要で、鎮静とは、これから手術をする動物に大人しくしてもらい、安全に麻酔薬を使うために使用するものであること。獣医師が行う帝王切開は、鎮静剤⇒麻酔薬⇒手術⇒鎮痛剤は術中に投与し、術後3日間は投与を続ける。術後の痛みは鎮痛薬で抑えるのが、倫理的な手術であるという。そもそも妊娠犬は、自然分娩か帝王切開か、獣医師の知見により判断される。素人にそんな判断ができるわけはないため、安易に腹部切開していたことがわかる。

また、被告側は、鎮静剤のドミトールを使用していたというが、ドミトールは鎮静薬であり、麻酔をする前に大人しくさせるためのもので、鎮静が主であるため鎮痛は期待できない。例えば、採血する時、注射する時、器官にチューブを挿管する時など、侵襲性が低いものに使用するのだという。ドミトールによる痛みの抑制は、意識を喪失させる効果は全くないため、ドミトールで痛みを取り除くことは出来ない。

また、妊娠犬の安全性が担保されてないことからドミトールは使わない。たとえ鎮静して大人しくなったとしても意識があるままでの開腹と摘出は強烈な痛みを伴うとのこと。ということは、ドミトールの使用で痛みを表現できない犬も、激しい痛みの中で苦しんだことがわかる。単なる鎮静薬のドミトールを使用し、術中の様子を「自然に麻酔が解けちゃう犬もいる」と呆れる発言もあった。ドミトールを使わず手術された犬も、激しい痛みに鳴き叫びながら、拷問のような虐待を受けたのだ。どちらにせよ残酷極まりない。

前回の公判で百瀬被告は「麻酔をせず、犬をみだりに傷つけた」というのは間違いであると主張したが、実際は鎮静薬か麻酔薬か鎮痛薬か、その違いも分かっていなかったのだ。腹部の縫合や傷については、縫合痕や傷は粗雑で、膿や感染が認められたという。公判の中で、起訴事実となっている4頭のフレンチブルドッグと、1頭のパグの写真がモニターに映し出された。どの犬も頭までガリガリに痩せこけていて、目だけがギョロギョロと落ちくぼみ、短頭種が持つハツラツとした本来の魅力はすっかり消え失せていた。痛々しい傷痕と輝きを失った目、衰弱した姿に胸が痛んだ。どれほどの恐怖と痛みを味わってきたのだろう。彼らの経験を想像すると、あらゆる感情が込み上げてくる。

公判の終わりに、裁判官から改めて質問があった。「縫合が全て粗雑とのことだが、粗雑だとどうなるのか?」この質問に獣医師は、「粗雑だと痛みが全く異なる。切開部分がギザギザしていて縫合も粗雑だと感染症の恐れがあり、感染症による敗血症を起こす、腫れたり化膿したり膿みでくっつかない」と陳述した。実際、塞がらない傷口から腸が飛び出していたという元従業員からの証言もある。まさに、獣医師が指摘したとおり、帝王切開とは名ばかりの残虐な腹部切開で、犬たちを虐待し続け、死なせたわけだ。

次回は、被告人の家族が情状証人として法廷に立つ。情状酌量による減刑を求め、同情をひくような言い訳をするのだろう。しかし、どんな言い訳を並べようと、まったく反省のない被告に同情の余地などあるはずもない。 (Eva代表理事 杉本彩)

⇒「杉本彩のEva通信」をもっと読む

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

  × × ×

 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。

© 株式会社福井新聞社