秋の行楽シーズンの登山が、暗転した。那須町湯本の朝日岳で7日、男女4人の遺体が発見された山岳遭難事故。捜索に当たった山岳救助隊員は「本当に悲しい事故だ」と胸を痛めた。登山者を襲った朝日岳の強風。前日の6日夕は、県警などの捜索を妨げた。山の状況について登山者らは「風はかなり強かった」「これまでで一番危険を感じた」と口をそろえる。遭難事故はなぜ起きたのか。関係者は驚きを隠せずにいる。
7日早朝。県警と消防、山岳救助隊員が峰の茶屋跡から朝日岳方面へと4人を捜索した。時折、体がよろけるほどの突風が吹いた。
「何とか生きていてほしい」。男性救助隊員の願いは届かず、遺体は登山道や近くの茂みで見つかった。
「早く遺族の元に帰してあげたい」。多くの隊員がそんな思いだったという。
3連休を前にした6日。朝日岳付近は強風に見舞われていた。
那須岳で営業する「那須ロープウェイ」は同日午後、荒天の影響で正午から午後3時までは下山者向けに下り線のみを運行し、その後は運休とした。「大変強い風が吹いており、雨も降っている」「無理な登山・散策はお控えいただきますようお願いします」。駅周辺の計測で風速20メートルを超えたため、交流サイト(SNS)で注意喚起していた。
救助要請を受け、県警と消防が現場へ向かおうとしたものの、強風に阻まれ捜索は中断した。
登山者の50代男性は6日、悪天候のため朝日岳に行く予定を変更。峰の茶屋跡の避難小屋で引き返した。「朝日岳は風雨で見えず、登る気になれなかった」。7日は那須岳方面へ向かったが「連日、踏ん張らないと立っていられない猛烈な風だった。30年近く山登りをしているが、1番くらい危険を感じた」と話した。
現場周辺をよく知る救助隊員は朝日岳について、「強風が吹くと、3千メートル級の山と匹敵するくらい過酷な環境になることもある」と例えた。「4人も亡くなるなんて。痛ましい事故だ」とショックを隠さず、落胆した。別の隊員は「登山経験者ならば登らないような状況だった」と残念がった。