社説:大阪のIR事業 課題積み残して開業急ぐな

 計画通りに大型工事を進められるのか。さらなる公費負担は生じないのか。そもそも日本にカジノが必要なのか―。

 カジノを核とする統合型リゾート施設(IR)を巡り、大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)への誘致を進める大阪府が、運営事業者「大阪IR」と実施協定を締結した。

 開業に向けて一歩前進とするが、疑問や課題を置き去りにして突き進んでは危うい。

 IRはカジノに加え、ホテルや劇場、国際会議場などを一体的に整備する。2021年7月施行のIR整備法を受け、大阪ではオリックスと米カジノ大手の日本法人が主に出資する大阪IRが運営に当たる。

 実施協定は、政府の認可を得て先月28日に締結された。

 4月に政府が認定した整備計画段階で、開業時期は29年秋―冬ごろとしていた。だが、実施協定では工程の変更に伴い30年秋ごろへ1年先延ばしされた。

 初期投資額も建設資材高騰などを踏まえ、約1兆800億円から約1兆2700億円に膨らんだ。増額分はオリックスなどが負担するが、早くも計画のほころびが露呈したといえよう。

 とりわけ気がかりなのは、事業者がIRから撤退できる「解除権」だ。実施協定で事業者の都合により事業を白紙化できる期限が26年9月末まで延長された。本来は先月末に廃止されるはずが、事業者に押し切られる形で盛り込まれた。

 夢洲は液状化や地盤沈下が懸念され、土地を貸し出す大阪市は対策工事費として最大約788億円をつぎ込む。公金も投じる巨大事業が途中で頓挫する事態もあり得るわけだ。

 隣接する25年大阪・関西万博も、海外パビリオンの建設が遅れ、建設費高騰や人手不足が目立つ。来夏からIRの工事が始まると、万博建設と重なる。島へのアクセスは橋やトンネルに限られ、25年春に万博が開幕すれば、渋滞も心配だ。

 IRは万博との相乗効果を狙い、「負の遺産」とされた夢洲の活用が狙いだったが、これでは共倒れにならないか。

 大阪のIRは、大阪維新の会が首長を握る大阪府・市が重要な成長戦略と位置付け、年間約2千万人の来場を見込んで誘致してきた。ただ、コロナ禍もあって世界的にカジノの売り上げが落ち込んでいる。採算性や波及効果を疑問視する声は多い。

 そもそも当初から賭博の収益で観光や経済の振興を図る手法は、副作用が大きいと批判されてきた。

 政府は認定に際し、ギャンブル依存症対策や地盤沈下・液状化対策など「七つの条件」を付けている。乗り越えるべきハードルは高く、先行きは不透明といわざるを得ない。

 政府と府・市は前のめりを改め、いま一度、IRが抱える負の側面を直視し、カジノ頼みの地域振興を再考すべきだ。撤退も今ならまだ間に合う。

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