社説:水上バイクの事故 京滋で問題深刻、国も対策を

 琵琶湖で相次ぐ水上バイクの事故を受け、滋賀県警が操船ルールを規定する県条例の改正に向け検討を始めた。「酒気帯び」状態での運転に罰則を設けることが柱という。

 8月末に大津市北比良の湖上で、水上バイクが遊泳中の子ども2人をはね、けがをさせる事故が起きた。運転者は無免許だった上、呼気からはアルコールが検出された。

 子どもの命に別条はなかったものの、大惨事につながりかねない極めて危険な運転である。ところが、運転者は無免許運転については罰金の略式命令を受けたものの、酒気帯びに関しては条例などに罰則がないため、罪に問われなかった。

 水上バイクは近年、「密」を避けられるレジャーとして人気を集めるが、事故も頻発している。琵琶湖では今年、9月末までに発生した49件の船舶事故のうち、15件が水上バイク関係だった。京都でも、天橋立付近などで水上バイクの無謀な運転が問題になっている。

 同様に運転免許が必要な自動車に比べ、水上バイクやプレジャーボートは規制が緩いと指摘されて久しい。事故を未然に防ぎ、誰もが安心してレジャーを楽しめるルールづくりへ、議論を深めねばならない。

 水上バイクの酒気帯び運転を巡っては、東京都や茨城県などが条例ですでに罰則を設けている。兵庫県は2021年、無免許で飲酒運転の水上バイクが消波ブロックに衝突し、3人が死亡した事故がきっかけになった。昨年6月の条例改正で設けた罰則には懲役刑も含めた。

 罰則の導入は抑止力になるとの期待がある一方、飲酒は事故を起こさない限り発覚しにくく、効果は限定的との見方もある。規制を担保する行政や警察の運用が問われよう。

 兵庫県は条例改正と併せ、水上バイクの「安全宣言ショップ制度」も創設している。ルールの順守を誓約できない人の利用を拒否するなど、条例の趣旨に賛同する取扱店に「お墨付き」を与える仕組みだ。

 こうした先例も参考にして、地域社会の協力を得ながらマナー向上を図る取り組みを進めていく必要がある。

 水上バイクの事故は全国の湖や海、川などで起きている。条例だけでなく、法律の見直しも急ぎたい。

 水上バイクなどを対象にした小型船舶操縦者法は、飲酒しての操船は禁じてはいるが、違反しても罰則はない。道路交通法のように、全国一律で実効性のある規制が必要ではないか。悲惨な事故を繰り返さないため、国は一歩踏み込むべきだ。

 重大事故がクローズアップされるが、多くの愛好家は適切に水上バイクを楽しんでいる。一部の悪質な利用者のために水辺の魅力が損なわれることがないよう、英知を集めたい。

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