移住した中国山地の町で猟師目指すニューヨーク出身の女性

【動画】移住先で猟師をめざす女性

広島県の東部。中国山地の山懐にいだかれた、神石高原町。

「おはようございます!」

森野杏菜さんは24歳。2023年4月に東京から移住し、町が募集した「地域おこし協力隊員」として活動するかたわら、猟師を目指しています。

■森野杏菜さん

「これから捕獲があるんですけど。くくり罠で結構大きいらしい」

隊員の仕事のひとつは、「害獣」の駆除。イノシシが罠にかかったとの連絡を受け、先輩隊員の原さんと共に現場に向かいます。車を走らせること40分。一帯は急斜面でした。体長1メートル余りのイノシシ。地元の猟友会が銃で仕留めます。早速、イノシシを引き上げるための準備を始める森野さん。しかし。

■「あっ!」「危ない!こっちへ逃げろ!」

仕留めたはずでしたが、突然暴れだします。

銃でとどめを刺し、イノシシにロープを取り付け、トラックを停めた道路まで引き揚げます。

■森野杏菜さん

「まあでもそんな感じです。これがやりたくて来ているんで楽しいです」

深刻化するイノシシ被害。手入れが行き届かない山が増え、イノシシが田畑に出没。農作物を食い荒らしたり踏みつぶす被害が相次ぎます。

■地元の人は

「(イノシシが)1回入ったら全滅。毎年こう。去年もこのようだった」

町内での年間の捕獲は、かつて500頭程でしたが、現在はその3倍に達しています。

一方、狩猟に携わる人の平均年齢は70歳。害獣被害に直面する町が、若い力を求める所以です。

■猟友会・横山彰人さん

「(若い人が捕獲に協力するのは)いいこと、若い人が少ないから。私みたいに年寄りばかりだからいいことにはならない」

森野さんが月の半分勤務する、「備後ジビエ製作所」です。ここでイノシシなどを解体。加工した肉は、ペットフードとして販売しています。先ほど捕獲したイノシシも、先輩の原さんの指導を受けながら、解体しました。

■原さん

「(イノシシの)皮むきとかメキメキ上達する。性格が明るくて一緒にやっててメンタル的に助かる」

ニューヨークに生まれ、この街で育った森野さん。8歳の頃に出会った1冊の本が、転機になったと言います。

■森野杏菜さん

「サバイバルする少年の本がアメリカにあって、その本を読んでそれがずっと夢だった」

しかし、ニューヨークでは、人種差別を経験。13歳で母親と東京に移住しましたが、日本語がほとんど話せず、引きこもりがちに。二つの祖国に、「居場所」は見つかりませんでした。

■森野杏菜さん

「アメリカでは人種差別があって、日本では日本人の顔をしながら日本人の中身ではなくてなかなか人と上手くコミュニケーションがとれなかった。どこかは森でゆったりとあまり心配しないで、ゆったりと暮らせたらいいな(と思っていた)」

人付き合いが苦手と言う森野さんが没頭した世界。それは「絵」でした。憧れの森での暮らしを、絵で表現。プロの漫画家を目指していた20歳の頃には、大手出版社のコンテストに入賞します。しかし腕を痛め、ペンを持てなくなった時期もありました。その時に決意したのが、何時か森で暮らすことでした。

■森野杏菜さん

「絵が描けなくなったらこの世界に入れないので現実に行くしかなかった。人と上手くコミュニ―ケーションが、とれるかが一番怖かったがとにかく頑張るしかない進んでいくしかないという気持ちだった」

「地域おこし協力隊員」の仕事は、多彩です。交流の場を盛り上げる役割も、欠かせません。月1回のフリーマーケットもそのひとつ。不安だった地元の人たちとのコミュニケーションも、取り越し苦労でした。

■森野杏菜さん

「何が違うのか分からないが、色んな世代がいるので、子どももいれば高齢の方もいるので話しやすいのかもしれない。あとは神石高原町の方の人柄がいい方ばかりなので」

森野さんが、この町に来て半年余り。8月には「狩猟免許」を取得し、猟が解禁される11月からは、1人で山に入って散弾銃でイノシシを狙えるようになります。一方で、生き物の見方にも変化がありました。

■森野杏菜さん

「(イノシシの)声とか目とか見ているとできる限り殺したくない。まずは(イノシシの)侵入防止のための防除策とできる限りの環境整備も含めてやっていきたい。人間として責任を持って生きていきたい」

来月から「猟師」としての一歩を踏み出す森野さん。森と共に生き、命とどう向き合うのか。心安らぐ「居場所」作りが、幕を開けます。

【2023年10月10日 放送】

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