ウミガメ保護のために働く臭気探知犬の研究

ウミガメの巣を探知する犬の研究

犬はその優れた嗅覚を使って、私たち人間をさまざまな面で助けてくれています。犯罪捜査、行方不明者の探索、人間の病気の探知、農作物の病気の探知などその範囲はとても広いものです。

そして近年増えているのは、環境保護のために働く臭気探知犬です。駆除の必要な侵略的外来種の植物を探し出したり、保護が必要な絶滅危惧種の生息地を匂いで判別したりというのが彼らの仕事です。

そのような野生動物保護のひとつとして、ウミガメが産卵のために作った巣を匂いで探知する犬の研究が報告されました。

この研究を行なっているのは、ディズニー・アニマルズ・サイエンス&エンバイロメント(ディズニーのアニマルキングダムを運営している会社)、J&Kケーナインアカデミー社、インウォーターリサーチグループ社の3企業の研究者チームです。

探知犬に選ばれたのは元保護犬のテリア系雑種ドリー

世界中でウミガメの多くの種が、さまざまな原因によって絶滅の危機に瀕しています。その原因のひとつが、産卵のための巣を作る砂浜が失われていることです。

保護活動家や研究者は、ウミガメの生存確率を向上させるために彼らが卵を産みつける巣の保護に取り組んでいます。そのためには卵が産みつけられた巣の正確な位置を特定しなくてはなりません。

通常はカメが砂浜を移動した跡を辿って巣を探すのですが、ウミガメは捕食者の目をくらますために擬似移動を織り交ぜるので、この方法は効率的ではありません。地中の深い位置の卵を見つけるのも困難です。

しかし嗅覚を使って巣や卵を探知できれば、より効果的な保護活動ができる可能性があります。研究チームはドリーという名のテリア系雑種を選抜し、トレーニングを行ないました。

ドリーは路上で保護された犬ですが集中力と意欲の高さや、フィールド作業向けの体格や短毛であることなどの資質によって選ばれました。

ウミガメの巣と卵を探知するための匂いのターゲットは、ウミガメの排出腔粘液です。これは産卵の際に卵を包み込むようにメスのウミガメが分泌する粘液です。

この粘液は営巣地近く綿棒を使って採取できるため、卵を犠牲にすることなく匂いを集めることができます。

調査地は米国フロリダ州のディズニー・ベロ・ビーチ・リゾート近くの7kmに及ぶ砂浜で、調査時期は2017年と2018年の6月から8月でした。6月から8月はウミガメの産卵時期のピークに当たります。

探知犬ドリーの健康と福祉は常に最優先されました。水分補給、扇風機、冷却マット、日陰を作るためのパラソルなどが用意され、気温と砂浜の表面温度の30分ごとのモニター、ドリーにストレスの兆候が見られたらすぐに冷房の効いた建物に連れて行くことが徹底されました。

ドリーは高い精度でウミガメの巣を探知

ウミガメの巣の探知は犬のドリーとハンドラーのチーム、人間だけのチームによって行われたそうです。

調査期間中にドリーとハンドラーのチームが探知した営巣地の数は560(2017年262、2018年298)であったのに対し、人間の調査員チームは256(2017年99、2018年157)でした。

またドリーが探知した560の営巣地のうち、実際には産卵された巣が見つからなかった割合は5.7%でしたが、人間の調査員チームでは14.8%で産卵された巣が見つかりませんでした。

前述したように、ウミガメは捕食者の目をだますために擬似移動をしますが、ドリーは擬似移動の足跡も100%の精度で嗅ぎ分けることができたといいます。

これらの結果から、探知犬はウミガメの卵を見つけるための成功率や労力の削減において、人間の調査員よりも優れている可能性が示されました。

今回の調査には1頭の犬しか参加していないので、この結果はウミガメの巣のモニタリングに、探知犬を使用することについての予備的なデータに留まります。

今後はウミガメの種類、環境要因、犬種による違いなどを理解し、最も効果的なアプローチを行うための、さらなる研究が必要であると研究者は述べています。

まとめ

アメリカのフロリダ州で行われた、ウミガメの卵を保護するため巣を探知する探知犬の研究についてご紹介しました。

犬の嗅覚とその応用範囲の広さには毎度のことながら驚かされますが、研究のための探知犬の健康や福祉への配慮についても良い意味での驚きと安心を感じました。

ドリーのような働く犬の協力を得て、野生動物の生息地や個体数が回復していくことを願ってやみません。

《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0290740

© 株式会社ピーネストジャパン