【MLB】 スウィープで散った若きオリオールズ 選手たちが充実のシーズンを振り返る

写真:敗戦を見届けるオリオールズの選手たち

2年前の100敗シーズンから若手を育て上げ、今年は101勝でア・リーグ東地区優勝を成し遂げたオリオールズ。第1シードとして臨んだプレーオフではレンジャーズにスウィープを喰らって敗れたが、今年のオリオールズの躍進の価値が色褪せることはない。敗戦後のオリオールズの選手たちの様子を、『ボルティモア・ベースボール・ドットコム』のリッチ・ダーボフと『ABC ボルティモア』のダン・コノリー(元ジ・アスレチック番記者)が取材している。

25歳にしてチームを牽引してきたアドリー・ラッチマンは、報道陣が去った後のクラブハウスで手を広げて立ち、ハグを求めていた。

同僚ジェームズ・マッキャンの5歳の息子・クリスチャンは、最初ラッチマンがふざけているのだと思った。そしてラッチマンの右手を殴って、平手で打った。

そしてラッチマンが優しく「来てくれよ、それが必要なんだ」と言うと、クリスチャンはラッチマンに寄りかかってハグを交わした。

短いハグのあとにクリスチャンが父親の元へ戻っていくと、ラッチマンはしばらく切なげにその場に立ち尽くし、ロッカーへと向かった。ここから、長いオフシーズンが始まっていく。

ラッチマンは「皆んなとの別れを惜しむ今、振り返るのは難しい」「今はまだ実感が湧かない」と語った。

若い選手が主体のオリオールズは、FAで去る選手は他球団ほど多くはない。しかし、完全に同じチームで戦うということはありえない。ラッチマンにとっては101勝を成し遂げたチームで戦うのがこれで最後という事実が重かったのだろう。

ラッチマンと同じくチームの顔である22歳のガナー・ヘンダーソンは「こんな思いは二度としたくない。どう表現したらいいか分からないけど、いい気分ではない」と悔しさを滲ませた。

彼らの昇格後にチームの快進撃が始まったラッチマンやヘンダーソンが悔しさをにじませる一方で、オリオールズには100敗を何度も越した再建期を過ごした主力も多くいる。

今年はじめてオールスターに選ばれたオースティン・ヘイズは「今年はとんでもないシーズンだった。ここ数年、オリオールズは負けてばかりだった。シーズンを通して、この瞬間を生きて、自分たちが(再建の)曲がり角に来ていること、自分たちがやっていることを実感した瞬間は本当に特別なものだった」と感慨をにじませる。

「クラブハウスやロッカールーム、バスでの移動がどれだけ楽しかったか…今シーズンがどれだけ楽しかったか。それが収穫だ」

第3戦に先発して負け投手となったディーン・クレマーは、イスラエル人の両親を持ち、彼の家族は戦争状態のイスラエルに住んでおり、中には従軍している者もいる。クレマーは間違いなく難しい状況に置かれていたが、敗戦後も「このクラブハウスのほとんど全員が戻ってくる。僕たちは地区を制した。目標はワールドシリーズだ。ステップバイステップでそこに到達するよ」と前を向いた。

厳しい再建の最中にもチームを励まし続け、ついに今年の躍進へと導いたブランドン・ハイド監督は今年の最優秀監督候補だ。悔しい敗退の仕方に違いないが、前向きな言葉を残している。

「この敗北は痛みを伴う。でも痛くてもいいんだ」

ミラクルのようなシーズンと、失望のエンディングを経験した若いオリオールズ。来年以降どのようなチームで帰ってくるだろうか。

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