社説:札幌五輪の断念 招致の是非から議論を

 2030年冬季五輪・パラリンピック開催を目指してきた札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)がきのう招致を諦め、34年以降へ仕切り直すと明らかにした。

 東京五輪を巡る汚職・談合事件の影響などで地元での開催支持が伸びず、断念に追い込まれた。招致の是非を白紙から問い直すべきだ。

 秋元克広札幌市長と山下泰裕JOC会長が協議し、表明した。

 国際オリンピック委員会(IOC)の理事会が12日からインドで始まり、開催地の絞り込みも予想される。30年大会はスウェーデンなどが招致に動き、札幌の「落選」は濃厚で、イメージダウンを避けるべきと判断したようだ。

 札幌市は1972年以来2度目の冬季大会招致を進めてきた。気候変動で雪に恵まれた候補地が減り、地元経済界などが招致に熱心な札幌が最有力視されていた。

 ところが、東京五輪の「負の遺産」が響いた。開催経費は当初見込みより倍増し、汚職・談合事件も発覚して風向きが変わった。

 IOCは開催地の住民の支持や機運醸成を重視する。

 しかし、日本世論調査会の昨年末全国調査で、札幌の五輪招致に対する賛成は過半数に達したものの、1年前の調査より減少。地元の北海道では逆に反対が56%に上った。「多額の税金を投入する必要を感じない」「汚職事件も十分解明されていない」として五輪開催に嫌悪感を抱く層が目立った。

 今年4月の札幌市長選でも五輪招致を訴えた秋元氏が3選を果たしたとはいえ、招致反対の2候補に約4割超の票が流れた。秋元氏自身も「理解が広がったとは言えない状況」と認め、招致を断念したのは当然の帰結と言える。

 札幌市とJOCは、2034年以降への望みをつなぐが、これも難しい。34年は米ソルトレークシティーが本命とされ、30年と同時に開催地が決まる可能性がある。

 東京大会と同じ轍(てつ)は踏まないと言うなら、根本的な見直しが欠かせない。だが、不祥事が起きても独自の検証すらできないJOCが再発防止や信頼回復を訴えても説得力はなかろう。

 開催予算は建設費の高騰などを考慮した修正試算で膨らんだ。スポンサー離れも懸念され、公費負担の増加は必至だろう。

 そもそも何のための五輪招致なのか。万博を含め大規模イベントを起爆剤に地域活性を図る発想が時代にそぐわない。疑念を積み残し「招致ありき」に固執しても国民の理解は得られない。

© 株式会社京都新聞社