【中医協】病院薬剤師、不足によって「必要業務できない状況」/退院後の薬局への情報提供など「十分できていない」

【2023.10.12配信】厚生労働省は10月12日、中央社会保険医療協議会(中医協)診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開催。この中で「病院薬剤師の業務の広がりと現状」についても議題となった。チーム医療やタスク・シフト/シェアの推進の中で、医療機関における薬剤師の業務は集中治療室を含めた様々な病棟薬剤業務や周術期における薬学管理にも広がってきているものの、薬剤師不足によって多くの必要な業務ができない状況にあることが報告された。

とりまとめ案に「薬剤師不足で必要な業務を十分実施することができない」と明記

同日の分科会では、入院・外来医療等の調査・評価分科会におけるこれまでの検討結果に関して、「とりまとめ(案)」が提示された。

病院薬剤師に関する調査結果では、「病棟薬剤業務実施加算1」について届出している医療機関は6割程度であり、急性期一般入院料1~3や特定機能病院入院基本料を算定する医療機関以外では、全般的に病棟薬剤業務実施加算1の届出割合が低くなっている。
回復期リハビリテーション病棟及び地域包括ケア病棟・入院医療管理料の病棟では、全般的に薬学的管理が行われているが、項目によって差があった。また、回復期病棟において困っていることの回答では、「薬剤師の手がまわらないこと」が最も多かった。具体的業務としては、退院時の服用薬の説明や退院後の薬局への情報提供が十分できていないことだった。
回復期病棟からの退院後の薬局への情報提供等の業務は、地域包括ケアの観点から重要であるが、薬剤師の手が回らないことによって十分に実施がされていない現状があるため、早急に対応する必要があるとの指摘があったと明記された。

急性期病棟であっても薬剤師の配置が十分でない施設がある現状があるとの指摘があった。また、地域包括ケア病棟においても、状態の安定しておらず医療を必要とする患者が一定数いる中で、適切な薬物療法を提供する観点から薬剤師の配置の工夫が必要との指摘があったとされた。

周術期薬剤管理加算の届出を行っている施設は、全体の約1割であり、手術件数が多い施設の届出割合が多かった。
周術期の薬剤管理など診療報酬で評価されている業務が実施できない理由として薬剤師が不足していることが多く挙げられており、このため必要な業務を十分実施することができない状況があると明記された。

「とりまとめ(案)」では、チーム医療やタスク・シフト/シェアの推進の中で、医療機関における薬剤師の業務は集中治療室を含めた様々な病棟薬剤業務や周術期における薬学管理にも広がってきており、医師の負担軽減及び医療の質向上への貢献の観点からも評価されていると記載。今後は外来においても薬剤情報の収集や処方提案、併用薬の確認など医療安全等を高める取組を実施すべきとの指摘があったとされた。

地域医療機能推進機構 理事長の山本修一氏「看護職員処遇改善評価料」と「職員全体の賃上げ原資」は「分けて考えるべき」

同日の分科会では病院薬剤師関連の委員以外からも、病院薬剤師不足への対応、評価拡充の必要性が複数指摘された。

独立行政法人 地域医療機能推進機構 理事長の山本修一氏は、看護職員処遇改善評価料の実績報告に関連して、看護職員処遇改善評価料について、コロナ禍における看護師支援という意味合いで補助金事業の考え方から続いているものではないかという認識を示した。その上で、「ある意味、コロナ対応だったということであれば、次回改定でどこの病院も希望しているのは職員全体の賃上げの原資であり、(評価料と)切り分けて考えるべきではないか。仮にこれがこのまま続くとした場合は、やはり問題なのは薬剤師がこの配分できるコメディカルから排除されていることだ」と述べた。「薬剤師が排除されている」理由については、「薬局を含めた薬剤師全体の給与水準」にあったとの認識を示し、「病院の薬剤師に限定すれば決して給与水準は高くはない。ほかの分科会でも病院薬剤師への支援が非常に重要視されているので、ここは考慮すべきではないかと考える」と指摘した。

日本医師会副会長の猪口氏、病院薬剤師の評価拡充を要望

また、日本医師会副会長の猪口雄二氏は、病院薬剤師について「不足が著しいといわれている」とした上で、「さまざまな委員会においても病院の薬剤師不足が指摘されているが、診療報酬による評価というのは 非常に大きい要素。ぜひ診療報酬でも評価を上げていただきたいと思っている」と述べた。

全日本病院協会常任理事の津留氏、リフィル処方箋拡大のためのスキルアップに「病院薬剤師としての卒後臨床研修制度求められる」

全日本病院協会常任理事の津留英智氏は、薬剤師の業態偏在を指摘。さらにリフィル処方箋に関連して、病院薬剤師としての臨床研修によるスキルアップが必要との考えを示した。

津留氏は、薬剤師の偏在については、「偏在の指標を示してもらったが偏在は明らか」とした上で、「基本的に処遇の不均衡が存在している限りはもうやむを得ないというか、ドラッグストアがやっぱり処遇が良くて、調剤薬局が良くて、病院薬剤師はその下ということになると、もうなかなかそこは偏在が解消されない」との認識を示した。
加えて、前回の改定で導入されたリフィル処方箋について言及し、「結果検証の方でデータ分析していると思うが、リフィル調剤を今後さらに伸ばそうとするなら、やはり薬剤師は臨床能力を高めないと。例えば外来で心不全が悪化しているかどうかということを見抜けないとやっぱり非常に危ない。そういう意味では病院薬剤師として例えば臨床研修みたいな形で制度を導入して病棟で聴診器を持って、あるいは画像見たりしてチームカンファレンスに出て、患者に対するアセスメント能力をスキルアップしていくということが今後求められる。そういった仕組みがないと、なかなか偏在は改善されないのかなというふうに思っている」とした。

東北大学病院 教授・薬剤部長の眞野氏「明らかに業態偏在が起こっている」

東北大学病院 教授・薬剤部長の眞野成康氏は、業態間の薬剤師偏在を指摘。
同日の資料から、30年前に比べて病院や診療所の薬剤師は1.5倍に増えている一方、薬局が4倍ぐらいに増えていることを指摘。「明らかに業態偏在が起こっているというデータが示されている」と述べた。職員の処遇改善に関しても、「実は病院薬剤師に関しては全く進んでいないということで、ますます薬剤師不足が深刻な状況になっているということだと思う」とした。
偏在指標についても、「都道府県で一番高いところでも病院薬剤師は足りていないということを示している」と説明。もっとも充足度の低い青森県では「必要な薬剤師の半分しかいない状況」と解説した。
「こういう状況を受けて第8次医療計画の指針の中では特に病院薬剤師については確保について取り組むべきだというふうに言われているが、都留委員の方からの研修の話もありましたが、研修・処遇・診療報酬も含めてさまざまな取り組みが今後必要になる」と主張した。

東北大学病院 教授・薬剤部長の眞野氏、医師の負担軽減効果が非常に大きい病院薬剤師の取り組み評価を

さらに真野氏は、病院薬剤師の業務の広がりについて説明。とりまとめ案にある「地域包括ケア病棟においても、状態の安定しておらず医療を必要とする患者が一定数いる中で、適切な薬物療法を提供する観点から薬剤師の配置の工夫が必要との指摘があった」との箇所については、「必ずしも配置にこだわっているというわけではなく、薬剤師の確保が難しい状況であっても地域包括ケア病棟のような病状の安定しない患者の薬物療法においては、やはり薬剤師の関与を推進していることが非常に重要だという意味合いで発言をさせて頂いた」と自身の発言の趣旨を説明した。
その上で、現状について説明。次のように述べた。
「例えば集中治療を含むような救急医療体制の中で、最近は救急外来等においても薬剤師が関与しているという医療機関が増えてきている。救急外来医師が治療方針を決めるにあたって薬剤師が患者や家族から服薬状況等を確認し、その後の薬物療法のスムーズな実施に繋がっていると言うことが言われている。例えば薬剤師が関与することによって脳梗塞の患者さんに血栓溶解剤を適切・迅速に使用するということに繋がって、その結果として治療効果が上がっているというデータが出ていたりする。あるいは投薬側からもインシデント、アレルギーなどがあるが、そういったインシデントが大幅に軽減されるというようなデータも報告されている。その他にも術前外来における休止薬の評価において医師と連携するとか、経口薬を用いる薬物療法における薬剤師の副作用管理、処方提案、処方支援 、こういった医師の診療の支援などについてもいずれも実際、現場の医師からはたくさん要望があり、医師の負担軽減効果が非常に大きい取り組みであるため、ぜひこういったところに関しても評価していただきたい」(真野氏)とした。

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