ビッグモーター不正で愛車の“買取り額”“修理費”が不安… 「適正な査定」の見極め方とは?

ビッグモーターの査定・請求はプロから見ても“おかしな”点があった?(撮影:榎園哲也)

車に故意に傷を付け損害保険を水増し請求する、販売店に並べた車が見やすいよう街路樹を枯れさせる、など数々の問題が噴出している中古自動車販売・買い取り会社ビッグモーター(本社・東京都港区)。これら報道の広がりによって、中古車流通や修理に関する不信や不安がユーザーの間で広がっている。

では、ユーザーが大切な愛車を適正な価格で買い取ってもらうために、あるいは正確な見積もりでしっかり修理してもらうにはどうすればいいのか。本来の査定、修理費の正確な見積もりはどういうものなのか。不正のうち、特に問題が大きいと思われる査定と修理費鑑定の二つにポイントを当て、正しい手順や方法などを探った。

車のパーツの全てが評価の対象になる“査定”

ビッグモーターの不正の一つに、中古車売買の不適正な価格の操作が挙げられている。報道によると同社は、複数の買い取り業者が査定に応じた場合、明らかに他社が出さない高い金額を提示。しかし契約後に理由を付けて買い取り価格を減額するといったことも行っていたようだ。

中古車を売買する際に知りたい適正価格。ユーザーは自分の愛車を正確な価格で売りたいと思うし、一方の下取りをする販売店も同様に適正な仕入価格を把握したいことだろう。そうした双方のニーズに応え、中古自動車の“査定”を統一した基準で中立・公正、正確に行うのが「中古自動車査定士」だ。

査定制度を導入し、普及・啓発を進めている日本自動車査定協会(本部・東京都港区)の担当課長によると、中古車売買の“査定”とは車のどこに、どれ位の大きさの傷があるかなどをチェックし、点数化し、価格に戻すという作業だ。

たとえば、ボンネット、フェンダー、フロント・リアドア、タイヤ、アルミホイール、ナビゲーションなど、車のパーツの“すべて”が評価の対象となる。「非分解の検査で分解してまで見ることはないが、見える範囲は鏡を使ったり工夫して見るようにはしている」と担当課長。

エンジンなど内燃機関については、大きくチェックすることはしない。ただ、最近の車はさまざまなセンサーが普及していて、「何か不具合があると、車の方でインジケーターに何かしらの表示をする。もし査定を行った際に、何かしらのインジケーターが点灯している場合、査定依頼者が販売店に持ち込み修理見積もりを取得し、実費額の減点等をしてもらうことになる」(同前)。

修復歴や走行距離…査定のチェックポイントは?

事故などにより車の骨格に相当する部分が損傷している修復歴車のチェックは、査定の際の留意すべき点になる。たとえば、何もなければ100万円の価格の車が、修復歴がある車の場合、15万円引きになるようなこともあるからだ。

「修復歴があるかないかで価格が大きく変動する。査定士にとって見極めたいポイントになる」(担当課長)。

また、走行距離による「走行距離加減点」も価格査定を大きく左右する。たとえば、10万キロの車より5万キロの車の方が客の購買意欲が高まることから、査定士は走行距離を的確に把握することが求められる。

こうした査定に関する基礎知識を持つ「中古自動車査定士」になるための試験は、日本自動車査定協会所定の3日間の研修、またはeラーニングを修了した者が受験できる。2023年3月現在、登録査定士数は全国で13.3万人、査定協会に登録している査定業務実施店は7820社となっている。

ビッグモーターは、他社より「1円でも高く」というような買い取りも行っていたようだが、それでは市場相場が荒れることにもつながりかねない。ビッグモーターには、中古自動車査定士の資格を持つ社員は少なく、販売店自体も査定協会には登録されていなかったようだ。

「思い込みの損害確認は行わない」

さらにビッグモーターは、ユーザーから預かった車に故意に傷を付け、保険会社に水増し請求し、保険金を不正に受給していたことも報道などによって指摘されている。

修理費が適切なのか、保険会社に正当な額が請求されているのかは不透明であることが多い。これについて最近、車の修理費が適切かどうか第三者の立場から鑑定する新会社が設立された。

「CARLab(カーラボ)」(自動車修理費研究所、本社・埼玉県本庄市)は修理費の内容、金額について熟知し、損害保険会社のアジャスター(自動車事故の調査、解決のサポートを担う)との協定上の争点も踏まえて“鑑定”する。同社広報担当者によると、鑑定の手順はこうだ。

  • 車両確認を行って損傷事実を確認する。
  • 損傷が発生する以前の状態に復元するために必要かつ合理的な修理方法を検討し、見積書に計上する。
  • 完成した見積書を根拠に鑑定額とする。

鑑定を行う際は「思い込みの確認は行わない」ことに留意しているという。「同じ損傷や範囲というものはない。類似する損傷という理由で損傷波及経路の最終到達地点等の確認を怠ると、必要な修理方法が選択されず、修理費の適正性も担保されなくなる」(広報担当者)。

ビッグモーターで行われていた不正請求について広報担当者は、「損保のアジャスターの立ち会い調査で損害事実の確認を行う方法ではなく、ビッグモーター側の従業員が損傷箇所の写真を撮影し、その写真から確認可能な損傷事実に基づいて修理見積書が作成されていた。

詳しく損傷を見極めることが難しいことから業界では推奨されていない『写真見積もり』と呼ばれる損害認定の方法がビッグモーターでは日頃から行われていたように思う」と話す。

シンプルだが、ユーザーが大切な愛車を守るためにできることは「中古自動車査定士」が在籍する信頼できる会社や工場等に依頼し、正しい査定、正確な見積もり、しっかりした修理を行ってもらうことだ。

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