社説:藤井八冠の誕生 将棋史に輝く京都決戦

 将棋史に刻まれる金字塔が京都の地で打ち立てられた。

 将棋の藤井聡太七冠が挑戦者となった王座戦の第4局に京都市で臨み、タイトルを奪取して初の全八冠制覇を達成した。

 中学生でのプロ入りからわずか7年。棋界の頂点に駆け上がった若き王者の比類なき才能と努力に、敬意を込め賛辞を送りたい。

 全タイトルの独占は4人目で、羽生善治九段が当時の全七冠を制した1996年以来だ。歴代では升田幸三、大山康晴両名人という伝説的な名棋士にも連なる、紛れもない当代最強である。

 藤井八冠となった終局後も「見合った力があるかと言うとまだまだ。実力をつけていきたい」と変わらぬ謙虚さでかみしめた。

 さらなる高みを目指す21歳の進化がますます楽しみだ。

 14歳2カ月でのプロデビューから29連勝で脚光を浴び、節目の通算勝利や戴冠数でことごとく最年少記録を更新してきた。「藤井ブーム」と呼ばれた人気と期待に応え、たゆまぬ研さんで培った強さはいまや無双といえよう。

 タイトル戦は、初出場した2020年の棋聖戦から挑戦、防衛とも全て制し、すでに歴代7位の通算18期の獲得となった。

 今回の王座戦でも、4連覇中だった永瀬拓矢前王座の攻めにたびたび劣勢に回ったが、深い読みと的確な指し手で勝機をつかんだ。2局連続となる最終盤の大逆転を果たし、観戦者らを驚嘆させた。

 小学生から詰め将棋で鍛えた終盤の強さに比べ、当初は弱点とされた序盤の研究に人工知能(AI)を柔軟に取り入れて磨いた。最近では、AIの形勢判断を超える妙手を繰りだすことさえある。

 これからの目標を聞かれ、「面白い将棋を指せれば」とし、息の長い活躍ができるようにしたいと話した。勝ち負けだけでなく、将棋の真理と呼ぶ奥深さや、人間の可能性を追究、体現し、棋界をけん引していく意気込みと責任感の表れと受け止められよう。

 八冠が誕生した京都市のホテルでは大盤解説会が開かれ、6倍超の応募者から当選した180人が見守った。その活躍はインターネット配信などを見て楽しむファン「観(み)る将」増加にもつながっている。

 ブームから「藤井時代」へ。今後の関心は、全冠独占をどこまで続けられるかに集まろう。永瀬氏をはじめライバルたちも奮起し、魅力ある名勝負を繰り広げてほしい。後に続く子どもたちの目もいっそう輝くだろう。

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