虐待経験…社会的養護“リアル”な声 長崎出身女性の訴え映画化 子育て環境考えるきっかけに

映画「REALVOICE」の一場面。ハルカさん(左)を撮影する山本さん=長崎市内(ACHAプロジェクト提供)

 親から虐待を受け、児童養護施設などで暮らす「社会的養護」を経験した若者の声を集めたドキュメンタリー映画「REALVOICE(リアルボイス)」がこの春完成し、インターネット上で無料公開されている。出演した長崎県出身の女性(24)は「社会が今の日本の子育て環境について考えるきっかけになれば」と訴える。
 2022年度に児童相談所が対応した児童虐待相談対応件数は、長崎県が1084件、全国が21万9170件(速報値)で、いずれも過去最多となっている。
 映画を制作したのは東京のボランティア団体「ACHA(アチャ)プロジェクト」。代表の山本昌子さん(30)自身も児童養護施設で育った。社会的養護の対象は原則18歳までで、その後、保護を離れた「ケアリーバー」は公的な援助が途切れる。山本さんは16年に同団体を発足させ、成人を迎えたケアリーバーに振り袖を着る機会を提供する活動を始めた。
 制作のきっかけになったのはコロナ禍。ケアリーバーの孤立を防ぐため、オンラインの居場所づくりや物資支援を続ける中、「虐待のフラッシュバックで入院している」などと悲痛な声が寄せられた。
 「虐待(の後遺症)は大人になって終わりじゃない」。そのことを社会に知ってほしいし、その背景にも目を向けてもらいたい。シングルマザーで子どもを養うために必死に働いた結果、ネグレクト(育児放棄)に近い環境が生み出されることもある。今の子育て環境をつくっているのは日本に生きる私たち一人一人-。そうした思いを胸に山本さんは映画を撮ることを決めた。
 昨年3月に撮影を開始。オンラインで知り合った全国約450人のうち、45都道府県の10~30代計70人が出演し、思いを言葉にした。その一人が長崎市出身のハルカさん(24)=仮名=だった。
 ハルカさんは幼い頃から両親に暴言や暴力を振るわれた。高校生になり、離婚をきっかけに一緒に暮らす母親の言動がエスカレート。授業も受けられないほど追い詰められ、学校に相談し、児童相談所に一時保護を申し出た。
 児童養護施設での生活は「とにかくずっと人と関わって、安心できる場所だった」。高校卒業と同時に施設を出ざるを得なかったが奨学金や授業料の減免、アルバイト収入などで寮生活をしながら大学に通い、今は県外の大学院で学んでいる。
 「みんなで食べるご飯は本当に温かくておいしかったです。今を生きるエネルギーになっています」。映画では古里の風景をバックに、施設の職員や仲間にメッセージを送った。
 ハルカさんが出演を決めたのは山本さんらの活動に共感し「当事者として何か活動を始める第一歩にしたい」と考えたから。この秋から社会的養護を経験した日米の若者らでつくる団体でも活動を始めた。
 「社会的弱者って言われたりすると思うんですけど、すごく優しくて強い人たちが多いんですよ。映画ではそのことも感じてもらえたら」。ハルカさんは真っすぐな目で前を見詰めた。

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