5人帰国から21年…姉に「ごめんなさい」としか言えない 拉致被害者・横田めぐみさん弟、福井で複雑な胸中語る 

「拉致問題の解決を絶対に諦めてはいけない」と訴える横田拓也代表=10月6日、福井県の小浜市文化会館

 福井県小浜市の地村保志さん、富貴恵さん夫妻=ともに(68)=ら北朝鮮による拉致被害者5人の帰国から10月15日で21年となる。残された被害者の帰国はいまだ実現していない。1977年に拉致された横田めぐみさん=失踪当時(13)=の弟で、拉致被害者家族連絡会の横田拓也代表は「姉と私の立場が逆なら、私は日本を恨んでいると思う。姉が帰ってきたら『ごめんなさい』としか言えない」と複雑な胸中を吐露した。

 横田代表は6日、小浜市文化会館で講演後、報道陣の取材に応じた。

 被害者や被害者家族、支援者らが高齢化していることについて、横田代表は「活動疲れという面がないとはいえない。諦めに近い疲れがある」と打ち明けた。一方で「家族としても国民としても、絶対に諦めてはならない人権問題。諦めれば、日本は国民の生命も財産も守れない国になる」と話した。

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 この日の講演は、小浜市内の中学生約260人も聴講。拉致問題の風化が懸念される中、横田代表は「若者たちに対して、とりわけ教育の現場で、拉致問題を伝えていくことはとても大切。平和は誰かから授かるものではなく、自分たちがつくっていくんだ、ということを伝えてほしい」と求めた。

 今年5月、都内で開かれた被害者の帰国を求める「国民大集会」で、岸田文雄首相は「首脳会談早期実現のため、私直轄のハイレベルで協議を行っていきたい」と述べ、呼応するように2日後には「(日本の政府関係者に)会えない理由はない」という北朝鮮の外務次官談話が発表された。

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 横田代表はこうした動きを「岸田総理の発言は金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記に向けた意図があってのものだと思う。北朝鮮が2日後に回答することなんてあり得ない。ある程度(両国間で)準備されていたことだと思う」と一定の評価をした。

 その上で、2014年の日朝外務省局長級協議で拉致被害者を再調査することで合意したものの、北朝鮮の核実験によって合意が破棄された経緯を踏まえ「再調査といった話には絶対に乗ってはいけない」とくぎを刺した。

 日本政府が認定する拉致被害者は地村さん夫妻や横田めぐみさんら17人。仮に再調査になれば、北朝鮮は数人の安否を明らかにすることで問題の幕引きを図るとの指摘は多い。横田代表は「日本政府は安易に妥協せず、全拉致被害者の即時一括帰国という方針を変えることなく、速やかに首脳会談を実現してほしい」と強く求めた。

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