社説:今日から新聞週間 ひるまず鐘を打ち続けたい

 当欄を担当する論説委員室は毎日、そろって昼のニュースを見た後、会議に移る。

 朝に決めた社説のテーマについて、当番の委員がどう書くかを説明する。耳を傾けた他の委員らが口を開く。全員が40代以上のベテラン記者ばかりだ。さまざまな経験や視点から、異論、反論、注文が飛び交う。これまで積み重ねた京都新聞の主張との整合性も大切になる。

 1面コラム「凡語」も担う。きょうは朝刊のニュースを斬るか、気になる京都や滋賀の地域話題を料理するか。社説より柔らかく、ひとひねりを心がける。論より情に訴えることもある。

 新聞販売店などで扱う「凡語書き写し帳」は人気を伸ばし、年1万部を刷る。認知症予防、日記代わり、世間に関心を持って若々しく…。当室にも、読者からさまざまな「報告」をいただく。うれしい限りである。

 別のフロアでは、編集局の会議が断続的に開かれる。あすの紙面に、どんな記事を載せるか。解説記事もほしい。見出しが違うぞ。ほかに写真は? 書く記者、編集する記者、点検するデスクらの声が夜まで響く。

 近年、ここに加わったのがデジタル化の作業だ。京都新聞のホームページだけでなく、「ヤフー」や「LINE」などニュースを集めたポータル(入り口)サイト事業者にもニュースを流す。時間や字数に制限がないため、インターネット用の速報や長い記事を書くこともある。

 私たちは社会に鐘を鳴らす存在でありたいと願う。ただ、紙の鐘だけなく、デジタルの鐘も打つことで、より多くの人に社会の問題や話題を伝えられる時代になったと受け止める。

 一方、手間をかけた記事や論説に、デジタルでは適正な対価が支払われていないと国内外で問題化している。

 チャットGPTなど生成AI(人工知能)は世界中の記事などの著作物を「学習」して無料で使っているが、国際的なルール作りは緒に就いたばかりだ。

 公正取引委員会は先月、サイト事業者の巨大IT企業が報道機関に対し、「優越的地位にある可能性」を指摘。記事の使用料が著しく低い場合は独禁法上の問題になると警告した。

 これを受け、本紙も加盟する日本新聞協会は巨大ITに、記事の対価の算定基準などを明確にするよう求めている。

 ネットで記事が無料で読めるようになり、海外では新聞社の倒産が相次ぐ。地方紙がなくなった自治体は「ニュース砂漠」といわれ、政治や行政など権力への監視機能が弱まり、不正が増えるとの調査研究もある。

 人口の急減もあって紙の読者が先細りする中、どう報道を守るかは新聞社の共通課題だ。読者の信頼を高める記事を磨くとともに、経営基盤の安定にも理解を得つつ、ひるまず前へ。

 新聞週間に意を新たにする。

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