細田議長の辞任会見 「三権の長」あしき先例に

 【論説】細田博之衆院議長が先週末、記者会見し体調不良を理由に辞任を表明した。ただ、会見といっても時間や人数を制限し、のれんに腕押しのようなやりとりに終始するなど誠実な対応とは言い難い。首相や最高裁長官と並び「三権の長」と呼ばれ、国会議員の範となる高い識見と品格が求められる立場にはそぐわないと言われても仕方がない。

 とりわけ、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係については「特別な関係はない。会合に呼ばれれば出る程度の問題だ」などと、自ら疑念を解消する姿勢にほど遠かった。過去3回の文書や密室での説明では、教団側の会合に計8回出席したことなどを認めたものの、票の差配や選挙での支援や動員の受け入れは否定。記者会見は一貫して拒んできた経緯がある。

 旧統一教会の問題で問われるべきは、一義的には教団への高額献金による被害者の救済であり、教団側が資産を韓国などに移す恐れが残るものの、司法の場に解散命令が請求されたことで緒に就いたとみるべきだろう。残る問題は、政策決定への影響や教団の名称変更、社会問題化しながらなぜ長年見逃されてきたのか、という政治との関係にある。国権の最高機関が役割を果たしてきたとは到底言えないはずだ。

 これまでの証言の中で最も関心を集めてきたのが、「安倍(晋三元首相)氏は大昔から教団と関係が深い」と語ってきた点だ。今回の会見でも「長い関係、流れがあるのは知っている」などと述べた。細田氏は安倍氏亡き後「教団と政界」を知り得る一人として、つまびらかにしていく必要がある。議長に就いていることを理由に避けてきたが、今後は一議員に戻る以上、その責務があることを忘れてはならないだろう。

 週刊誌が報じたセクハラ疑惑に関しては「誰一人具体的なものはない。誰が被害者なのか。単なるうわさ話だ」とはねつけた。一方で、「男性に対し『セクハラだ』と述べ立てるのは、男性へのセクハラではないか」と開き直りかのような持論を口にしてみせた。

 細田氏は2021年の議長選出後のあいさつで「国民の期待と信頼に応えるべく最善の努力をいたす所存だ」などと訴えていた。その人物が在任中に疑念を持たれながら、説明から逃げ回り、最後に応じた記者会見も自ら途中で打ち切るなど、あしき先例を残したと言わざるを得ない。

 岸田文雄首相や自民党は会派を離れたことを理由に細田氏を調査の対象から外し、説明は本人に任せてきた。もはやその言い訳は通用しない。議長辞任後も議員活動は続行し、次期衆院選に立候補するというのならば、なおさらだ。

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