社説:「ガザ戦争」激化 軍事侵攻は人道危機深める

 イスラエルがパレスチナ自治区ガザに対する武力攻撃を強めている。

 イスラム組織ハマスによる大規模攻撃への報復だが、犠牲者のほとんどは一般のガザ市民だ。本格的なイスラエル軍の地上侵攻では被害のさらなる拡大は避けられない。

 日本をはじめ各国や国連はあらゆる外交努力を尽くし、双方に停戦を働きかける必要がある。

 イスラエル軍はガザを地上部隊で包囲し、空爆や砲撃を繰り返している。

 ネタニヤフ首相は野党党首と「戦時内閣」を発足させ、過去最大規模の予備役兵36万人を招集した。

 ガザ住民に対しては、南部へ退避するように求めている。対象は100万人以上になるという。

 東西10キロ、南北40キロほどの地域に200万人超が暮らすガザで、これだけの人が短期間に移動するのはあまりに非現実的というほかない。

 イスラエルは2014年以来の地上侵攻によって「ハマスせん滅」を目指す構えだ。

 ガザにはハマスに連れ去られたイスラエル人らの「人質」もいる。ハマスの奇襲を許したネタニヤフ政権の体裁を繕うかのような人命無視の強硬策ではないのか。

 すでに「完全封鎖」としてガザへの電気や食料、燃料の供給を止めている。

 ガザでは電力停止で地下水のくみ上げもできず、生活や医療もストップしている。

 壊滅状況にあるガザの市民生活をこれ以上悪化させることは、国際法上も人道的にも許されない。

 米国はガザ市民の避難のための「人道回廊」設置をイスラエルと協議し、EU首脳はイスラエル側に過度な反応を自制するよう要請する一方、報復としての空爆に「理解」も示した。

 米欧のこうした姿勢が続けば、中東ではかえって反イスラエルの機運が高まりかねない。

 イスラエルを敵視するイランや、その影響を受けるレバノンのイスラム教組織ヒズボラの動向も見逃せなくなっている。 

 残念なのは、イスラエル、パレスチナの双方と歴史的に良好な関係を築いてきた日本の動きが見えにくいことだ。

 政府の取り組みが各国の動静把握や日本の立場表明にとどまってはなるまい。

 日本は今年の先進7カ国(G7)議長国だが、アメリカやイギリスなど欧米5カ国が発表したイスラエル支持の共同声明には加わらなかった。

 独自の立場で紛争の鎮静化を訴える姿勢をさらに進めてもらいたい。

 いまこそ、日本と同様に双方にパイプのあるエジプトや北欧諸国など国際社会と連携し、積極的に停戦を働きかける時ではないか。

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