29日に8年ぶり「式見女角力(すもう)」 露払いの大役に初めて小学生 下村さん親子共演

横綱、太刀持ちと肩を並べる露払いの下村ひなたさん(左)=長崎市向町

 「オッコイサー」「イッチョナー」「ドスコイドスコイ」-。独特のかけ声とともに女性力士が土俵を沸かせる長崎市式見地区の伝統芸能「式見女角力(すもう)」。29日に開かれる秋の大祭「式見くんち」で8年ぶりに奉納される。今回初めて地元の小学生が横綱の土俵入りを先導する「露払い」の大役を任される。人口減少と高齢化に悩む中、伝統を守りながら新たな継承の形に挑む人たちを追った。

 ■明治期に伝承
 式見くんちは同地区の16自治会のうち2自治会が毎年、「月の輪太鼓」「安珍清姫(あんちんきよひめ)」などのユニークな伝統芸能を披露する。
 式見女角力は8年に1回、下浜自治会と下向自治会が担当。式見女角力保存会によると、1905(明治38)年ごろ、巡業で訪れた女力士が旧西彼式見村(現在の式見地区)に伝えたといわれ、同年の日露戦争凱旋(がいせん)祝賀会以降、祝いの場などで奉納している。
 一般的な相撲と同じく女性力士が横綱、大関、関脇の三役を務める。主な出演者がすべて女性で「喋ケ崎」「百合の花」など町名や人名にちなんだしこ名を持つ。女性力士が代々受け継いだ化粧まわしを着け、▽角力取り踊り▽四股踏みやせり上がりを披露する横綱の土俵入り▽三役そろい踏み▽横綱同士の取組▽弓取り式-の順で奉納する。
 輪になって踊る角力取り踊りの歌は「いっちょな節」と「角力踊唄」。歌い手の声に合わせて、女性力士らが軽快に腕を振り、手をたたく。「角力踊唄」は「鶴は千年亀万年」などのことわざを面白おかしくストーリーに仕立てた歌詞で、笑いを誘う。

 ■4歳から88歳
 8月から週3回、4歳から88歳までの住民が練習に励んでいる。横綱の土俵入りで東の露払いとなるのが、初参加の市立式見小4年、下村ひなたさん(10)。「ちょっと緊張するけど、練習でみんなが踊って声を出すのが楽しい」と笑顔を見せる。
 同保存会の𠮷原日出雄会長(65)は「地域の伝統を若い世代に引き継ぐために、小学生が初めて露払いを務める。他の地域の先陣を切り、新しいことに取り組むことにした。若い人に1歳でも早く体験してほしい」と語る。
 奉納の大トリである「弓取り」を担当するのは、ひなたさんの母、瞳さん(41)。長年、弓取りをしていた女性が体調を崩し、40年ぶりに交代する。「少子化だからこそ、自分も率先して、娘にも踊りを覚えてもらって式見全体で続けていかなくては」と話し、勢いよく弓を片手で回す。
 式見女角力は29日正午、同市向町の乙宮神社で奉納する。女性約70人のほか、太鼓や笛を担当する住民ら約100人が参加。同日午後2時ごろから式見公園(式見町)でも披露する。

弓取りを務める下村瞳さん=長崎市向町

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