中高年の約半数が歯茎の衰えから発症――根元から溶けて抜ける「50代落ち歯」の恐怖

歯の健康をキープすることが、健康長寿につながる

虫歯とは、歯に付着した虫歯菌が出す「酸」により、歯が溶かされて穴が開く病気。誰もが子どものころに痛い治療をした経験はあるだろうが、「大人になったら毎日歯も磨いているし、虫歯はそうそうできない」と、思い込んでいる人も多い。

ところが、年齢とともに虫歯が進行して歯が抜け落ちてしまい、正常な歯の本数28本(親知らずを除く)を維持するのが難しくなってくるという。

厚生労働省の「歯科疾患実態調査結果の概要」(令和4年)によると、50代は半数近くが歯周ポケットに悩み、歯を何らかの理由で失っている。

1人あたりの平均喪失歯数を見てみると、45~54歳で1.4本だったのが、55~64歳で3本と急に増え始め、それ以降は倍増していき、65~74歳は6本。後期高齢者になる75歳以降は11.2本も歯を失っている。

これをみると、50代は歯を失う入口に差し掛かっているということがわかる。

その原因のひとつが、歯の付け根にできる虫歯「根面う蝕」で、“大人の虫歯”ともいわれている。

「高齢になると歯が伸びたように見えてきます。それは、歯が伸びたのではなく、歯周病や加齢とともに『歯茎』が下がってくることから、歯が伸びているように見えるのです。歯は、歯茎から上の部分は体のなかで最も硬い組織『エナメル質』で覆われています。エナメル質の下には『象牙質』があり、歯茎が下がると、この象牙質が露出してきます。象牙質は『酸』に弱く、溶けやすい性質があるので、虫歯が進みやすいのです。治療を受けないで放っておくと、ある日突然、歯がポロッと抜け落ちてしまうこともあります」

そう解説するのは、幸町歯科口腔外科医院の宮本日出(ひづる)院長。

歯茎は30代で下がり始め、40代では8割、60代になるとほぼ100%の人の歯茎が下がるといわれている。

「健康寿命を延ばすためには、しっかりとかめる歯を一本でも多く残して、高齢になっても栄養バランスが整った食事を取ることが大事です。加齢とともに歯茎が下がるのを食い止めることは難しいのですが、歯の根が虫歯にならないようにすることは可能です」(宮本院長・以下同)

■8020を目指して歯の根元の虫歯予防

「根面う蝕」を防いで、「80歳になっても自分の歯を20本以上保つ」ためには、早期発見と予防が大切と宮本院長は言う。

「歯茎が下がると歯と歯の間にすき間ができるので物が詰まりやすくなりますし、歯の根元に虫歯ができてしまうと、知覚過敏でしみてきます。『最近、歯に物が詰まりやすくなった』、鏡でご自身の歯並びを見て『歯が長くなった気がする』、または、『冷たいものを食べると歯がしみる』といったことを感じたら、それはすべて歯茎が下がったシグナルです。ここで、正しい歯磨きをしてケアをすれば、歯の根元に虫歯はできずに、いつまでも丈夫で健康な歯をキープできます。歯の根元に虫歯ができたとしても、早期に発見できれば歯を削らないで進行を止めることができます」

’22年に「日本歯科保存学会」は、「根面う蝕」について、削らない治療を中心とする診療指針をまとめた。

虫歯の深さが0.5ミリ以内の初期虫歯には、「フッ化物」を含む歯磨き剤の使用を勧めている。

それをふまえて、宮本院長に歯と歯茎のケアの方法を教えてもらった。

■歯茎を下げない、虫歯を作らないケア3

【1】食後5分以内に口をゆすぐ

歯の根元の虫歯を予防するためには、食後すぐに歯磨きをすること。外出先で歯磨きができないときは、食事の後、5分以内に口をゆすぐことでも効果がある。

「水か液体歯磨きを口に含み、勢いよく歯と歯の間を洗い流すブクブクうがいでもいいので、食べカスを口の中に残さないようにしましょう」

【2】ブラッシングでプラークを取る

食後の歯磨きでは、特に歯と歯の境目のプラーク(歯垢)を取り出すが、力を入れすぎないようにしよう。

「歯間ブラシやデンタルフロスですき間にたまったプラークを取り除くのも効果的です。歯間ブラシは歯のすき間に垂直に差し込むのではなく、斜めに角度をつけると、歯のすき間を広げないでプラークをかき出すことができます。細めのものを選ぶといいでしょう」

【3】フッ化物を含む歯磨き粉を使う

歯磨きは、就寝前を含め1日2回、フッ化物の濃度が1400~1500ppm(1ppmは1万分の1%)の歯磨き剤で行う。

「ぬらした歯ブラシに2センチ程度歯磨き剤を付け、丁寧に磨いた後に、歯磨き剤を軽くはき出します。あまり力を入れすぎないようにするのがコツです。歯の表面をフッ化物で覆うことが大事なので、うがいをする場合は、少量の水で1回だけにしましょう」

年齢のほかに歯並びや治療など、歯の状態には個人差があるので、自己流の歯磨きでは予防に限界がある。歯の「かかりつけ医」を探して、歯だけでなく歯茎の状態もチェックしてもらいながら、歯の根元にも虫歯がないか見てもらいたい。

歯の健康をキープすることが、健康長寿につながる。50代のうちから口の中のお手入れをしっかり行っていこう。

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