「子の成長過程で図書館重要」 内田樹さん、滋賀・長浜市で講演

図書館の役割について語る内田さん(滋賀県長浜市木之本町・木之本スティックホール)

 滋賀県内に現存する最古の私設図書館である江北図書館(長浜市木之本町、1907年開館)のファンクラブが主催する「きのもと秋のほんまつり」がこのほど、同図書館近くの木之本スティックホールで開かれた。メインの特別講演に、思想家で多数の著書がある内田樹さんが登壇。約250人の観衆を前に、書物や図書館が持つ役割について話した。

 内田さんは「学校教育、宗教と並んで、日本で学校図書館は危機的状況にある。存在が希薄になり、大事にしようと言う人がいない」と課題を提示した。図書館の機能について「子どもが成熟した市民へと成長する過程では、外の世界や集団を知り、広い価値観に触れることが重要。図書館は書物を通して外の世界を知る入り口になる」と紹介した。

 自身も足しげく図書館に通い、自宅で本に囲まれて育った経験を語りつつ、「図書館では膨大にある本を見て、自分の無知に気づかされた。それが図書館の役割。図書館で自分が知らない世界を知ることは自己刷新につながる。常に変化できる人間こそが知性的であり、知性を発動させられる空間が図書館」と鋭く指摘した。

 講演前には江北図書館を訪れ、蔵書や建物に触れた。その感想を「明治や戦前の本がたくさんある。ぜひ手にとって感じてほしい。今読んでもリアリティーがすごい。あの空間を通過した子どもが一人でも成熟した大人に育つなら素晴らしい。新刊書やベストセラーよりも大切なものがある」と実感を込めた。

 続いて、全国で私設図書館を運営する関係者や江北図書館のスタッフによるトークセッションも行われ、地域における図書館の役割を語り合った。同図書館の岩根卓弘理事長は「図書館がいかに地域に貢献できるのかを模索している。この空間の素晴らしさを発信したい」と呼びかけた。

 会場には小規模出版社による販売や飲食ブースも設けられた。徒歩でほど近い江北図書館へ移動して本を閲覧する参加者もおり、読書の秋の一日を堪能していた。

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