社説:防衛相の失言 不信が募る内向き内閣

 木原稔防衛相が、衆院長崎4区補欠選挙の自民党候補の集会で「しっかり応援していただくことが、自衛隊ならびにそのご家族のご苦労に報いることになる」と支持を呼びかけた。

 翌日に撤回したが、自衛隊を統括する防衛相の立場にありながら、政治的に中立であるべき実力組織を政治利用するかのように受け取れる発言は看過できない。

 岸田文雄首相が内閣を再改造し1カ月余り。緊張感のなさや、自民の派閥を優先した人事のほころびが目立つ。支持率は政権発足以来、最低の32%に落ち込んだ。あさって臨時国会が開会する。岸田政権は国民と誠実に向き合う姿勢に改められるかが問われている。

 木原氏は、海上自衛隊の基地などがある佐世保市で自民党候補を応援演説し、防衛費の大幅増に反対する野党を批判。「そういう方(野党候補)に佐世保の代表になってほしくない」とし、自衛隊の苦労に報いて佐世保の発展になると自民候補への投票を求めた。

 記者団に問われ、政治家としての演説だと強調し「誤解を生むのであれば撤回したい」と釈明した。だが、「自衛隊のまち」での防衛相発言は選挙に影響しかねず、不見識というほかない。

 自衛隊法は「政治的目的のために、政治的行為をしてはならない」と厳しく政治中立を定める。岸田氏は「引き続き職務に当たってほしい」と更迭を否定するが、任命権者としての責任は重い。

 内閣再改造では、自民派閥が出した「入閣待機リスト」からの起用が露骨だった。茂木敏充自民幹事長の派閥に属する木原氏も例にもれない。

 計54人の副大臣・政務官人事では派閥均衡を重んじるあまり、女性がゼロになり、批判を招いた。

 党人事では、杉田水脈衆院議員を環境部会長代理に登用した。直前に杉田氏は、アイヌ民族への侮蔑的なブログ投稿が「人権侵犯」だと札幌法務局が認定したばかりである。前回の内閣改造でも杉田氏を政務官に抜てきしたが、過去の数々の差別発言が非難を集め、事実上の更迭に追い込まれた。

 国民の不信感より、党内右派への気配りが岸田氏にはよほど大事なのだろう。

 先週末の世論調査では、今月末にまとめる経済対策に約6割が期待感を持たず、日本の財政に約8割が不安感を示した。内向きの理屈で場当たりの「ばらまき支出」を繰り返す姿勢を、国民は見透かしていると自覚すべきだ。

© 株式会社京都新聞社