【特集】演劇が介護を救い、老いを輝かせる…97歳の俳優が「生前葬」テーマの舞台に 岡山

老いをテーマに活動する岡山の劇団が、岡山芸術創造劇場ハレノワで新作を上演しました。劇団の看板俳優は97歳、老いても舞台に立つ理由とは?

9月グランドオープンした岡山芸術創造劇場ハレノワ。10月、その小劇場に多くの人が詰めかけました。

公演したのは、老いや認知症をテーマとする劇団OiBokkeShi。今回の公演は、ハレノワの開館事業の一環として行われました。

劇団の看板俳優・岡田忠雄さん、97歳。新作のテーマ「生前葬」は、岡田さんの一言がきっかけでした。

2018年の夏、岡田さんは脳梗塞で入院しました。当時92歳……医師には後遺症が残ると言われました。

(岡田忠雄さん[2018年])
「生きるのに疲れた。ただし1つの生きがいは、オイボッケシ、この舞台」

そんな状況でも演劇への意欲を見せ、劇団の菅原さんに次の構想を話しました。

(岡田忠雄さん[2018年])
「生前葬ね。生きてる先のお葬式。今頃あるでしょ。それです」

新作「レクリエーション葬」は、岡田さん演じる岡谷正雄が、入居する介護施設のレクリエーションとして、月に1回、生前葬をするという物語。

(劇団OiBokkeShi/菅原直樹 主宰)
「死と向き合うことで、自分の人生を再び創造していく。レクリエーションというのは、再創造っていう意味があるんですよね。なので、介護施設のレクリエーションを通じて、一人の高齢者の人生が再創造されていくストーリーになっている」

劇中では、生前葬をきっかけに、家族関係で苦しんだ人々が過去と向き合いはじめ、その関係を前向きに作り直していきます。看板俳優・岡田さんも、実生活で家族との関係で苦しんだ過去がありました。

岡田さんは、「認知症」の妻・郁子さんを10年以上自宅で介護。

妻から罵声を浴びせられたり食事を投げ捨てられたりする日々に、日記には「殺してやろうか」と書くほど追い込まれました。

それを救ったのは、介護福祉士としても働いていた劇団の菅原さんに教えられた「認知症介護で、ぼけを正さずに演技で受け入れたこと」。

「演じること」で、妻との壊れかけた関係をもう一度、2人で笑い合えるように――。「演技」が夫婦を救いました。

それでも2023年1月、妻・郁子さんは永い眠りにつきました。

(岡田忠雄さん[2023年3月])
「生前はありがとう言うてよ。今の顔の方がいいが。あの時にけんかをしたのを映してくれたよ。思い出す? ねえ。ありがとう言うて。はい」
「演劇があったから生きてこられたんよ」

本番当日――。

「殺してやろうか」と考えた過去も、「演劇」で思い直すことができた「今」。

(演劇の様子)
「天国で劇団を作るんよ」
「お父ちゃん、死んでも芝居するの?」
「あーもちろんだよ!」

演技で人生を変えてきた岡田さんの舞台での姿は、観客の老いや死のイメージをも「再創造」させます。

(観客は―)
「もう涙も出るし、笑いもあるし、すごい感激しました。悔いのない人生を送れたらいいなと思いました。」
「生と死みたいなところを、ちょっとポジティブに、あまり悲壮感なく考えられるというか、楽しく受け入れられるのがよかったかな」

(劇団OiBokkeShi/菅原直樹 主宰)
「人は年をとっても自分の好きなものを通じて、仲間が集まってくると、いろいろなことを達成することができる。そのエネルギーを、皆さんに感じていただけたんではないかと思います」

病に伏せても、老いようとも、舞台で演じ続けてきた97歳。その姿が老いを輝かせています。

(岡田忠雄さん[97])
「指名があれば命の限り俺はやる。だって役者に定年はないもの。今できる演技をやりたい」

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