【アジア】【LegalOn Technologies 法務レクチャー】「紙で保存」NGに 電帳法への対応急げ[経済]

見積書、契約書、請求書に領収書‥‥日々の取引では多くの紙の書類や電子データを取り扱う。しかし、今年の末に「電子帳簿保存法」の宥恕(ゆうじょ)措置期間が終わり、状況は一変する。対象書類の紙での保存は不可となり、電子取引データの新たな保存義務が課される。アジアとの取引分なども含めて対応期限が間近に迫る同法について、LegalOn Technologiesの吹野加奈弁護士が説明する。

◆Lecture1 書類の保存義務、幅広い対象文書

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【タイで製造した商品を輸入販売する会社で、経理課のA課長と4月に入社した新人Bさんの会話】

Bさん:今週もタイや国内の取引先から請求書が届いていますね。手早く片付けていかないと。まずは請求書のPDFをダウンロード、印刷やファイリングもして、と。

A課長:書類の作業が速いですね。そういえば、Bさんは「電子帳簿保存法」という法律を知っていますか?

Bさん:最近よく耳にします。決算関係の書類とか請求書とかを、データで保存する際のルールを定めた法律ですよね。

A課長:そうですね。では、なぜ今話題になっているかは分かりますか?

Bさん:それは、ええっと・・・・

A課長:電帳法では「電子取引データの保存の義務」が求められていますが、その宥恕措置(義務の履行を特別に免除する措置)が2023年いっぱいで終了するからです。企業によっては早めの対応が必要です。

Bさん:年内までとは、もうすぐですね。わが社にも影響があるのでしょうか?

A課長:もちろんです。今は電子取引の請求書などもプリントアウトして、郵送されたのものと一緒にキャビネットに紙で保存していますからね。少なくとも年内には電子データの保存をルール化しなければいけませんし、最終的には要件を満たした電子データの管理システムを整備する必要もあります。自社で構築するのか、他社のシステムを入れるか、考えることは多いですね。また、最近は海外法人との取引も電子取引が主流ですから。

Bさん:それは急がないといけませんね。

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電子帳簿保存法(電帳法)は、帳簿書類の電子データ保存のルールを定めた法律です。元々、帳簿書類は法人税法によって「7年間の保存義務」が定められています。電帳法はこの保存義務の特例であり、

・税法上、保存義務のある帳簿書類を紙ではなく電子データで保存することを認めること

・税法上、保存義務のない電子取引データの保存義務を課すこと

を目的としています。

ここでいう帳簿書類とは、仕訳帳や総勘定元帳、貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)、見積書や契約書など、国税や取引に関係するものを指します。

なお、取引に関係する書類には電子取引データも含まれます。具体的には、電子契約データ、メール添付の請求書(送受信いずれも)、ウェブサイト上の領収書なども制度の対象となってきます。

◆Lecture2 データ印刷保存、24年からは不可

電帳法は1998年に制定された法律で、その後、何度か改正され最近では2022年1月1日に改正されました。改正点はいくつかありますが、特に大きな変更の1つに「電子取引に関する電子データの保存の義務化」が挙げられます。

改正前まで、電子取引の記録は印刷して紙で保存することも認められていました。しかし、改正によってこのような代替は不可となり、電子取引データは要件を満たした電子データでの保存が必須とされています。

ただし、これには宥恕措置が与えられています。23年12月31日までは従前の通り、印刷物での保管も認められます。なぜなら、要件を満たした電子データを保存できるシステムの構築のハードルが高く、急なルール変更に経済界から反対意見があったためです。

実際、システム構築が困難なために、宥恕措置が取られた後に電子データから紙での保管に切り替えるという、時代に逆行した動きもあったようです。

出所:LegalOn Technologies

◆Lecture3 スキャンすれば紙不要、把握必須の保存3制度

電子帳簿保存法では、以下の3つの制度が定められています。

・電子帳簿等保存

・スキャナ保存

・電子取引データ保存

帳簿書類の中には、最初から一貫して電子データで作成されたものがあります。例えば、会計ソフトで作成された貸借対照表などです。これらを「一定の要件を満たせば、電子データのまま保存しておいてよい」と定めたのが「電子帳簿等保存」の制度です。

また、取引関係の書類の中には、紙で作成されたものがまだまだ少なくありません。例えば、自社が発行した注文書や取引先から受領した請求書などです。これらを「一定の要件を満たしたスキャンデータを用意すれば、紙のものは廃棄してよい」と定めたのが「スキャナ保存」の制度です。

さらに、eコマースなど電子データで終始やりとりされる取引もあります。その中で発生した請求書などのデータは、Lecture2でも触れた「電子取引データ保存」の制度によって保存の要件や義務が定められています。

出所:LegalOn Technologies

◆Lecture4 見やすく探しやすく、電子データ保存4要件

3つの制度の要件はそれぞれ異なります。混同しないよう注意が必要です。また、要件が非常に細かいものもあり、一つ一つ確認するのは非常に骨の折れる作業です。とはいえ、いずれの制度も各要件が目的とするところは共通していますので、全体像を把握するだけであれば、そこまで大変ではありません。

要件は、その目的に合わせて以下の4つに分類できます。

・改ざんされないか?(真実性の確保)

・明瞭であるか?(見読可能性の確保)

・システムのマニュアルを備えているか?(関係書類の備え付け)

・データはすぐに見つかるか?(検索機能の確保)

1つ目は「真実性の確保」です。つまり、改ざんできないような信頼性の高いシステムを使いましょう、ということです。特に「スキャナ保存」については、改ざんされやすい特性があるため要件が細かく定められています。

2つ目が「見読可能性の確保」。税務調査の際に調査官が解読できるよう、データや装置(ディスプレーなど)を用意しましょう、という趣旨です。データがコンピューター言語に変換されていたり、画質の粗いスキャン画像だったりしてはいけないということです。

3つ目は「関係書類の備え付け」。調査官がそのシステムを使えるように、という趣旨で定められています。

4つ目が「検索機能の確保」です。調査官が格納された情報を検索し、ダウンロードすることなどができるよう「取引年月日(その他の日付)」「取引金額」「取引先」の3つを記録しておくことが求められています。

◆Lecture5 電子化は世の流れ、ビジネスでも必須

アジアを含め、世界での電子取引市場は拡大の一途です。電帳法とその改正は、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進へと向かう世の中の動きに連動したものです。今回のような法改正への対応を考慮しなかったとしても、帳簿・書類の電子データ化への体制を整備していくことは、ビジネスにおいて必須といえるでしょう。

一方、自社で要件を満たすシステムを開発することはもちろん、他社が開発したシステムを導入する際に各システムが電帳法の要件を満たすかどうかを自分たちで判断するのも大変です。

そんな時、公益社団法人・日本文書情報マネジメント協会が定める「JIIMA認証」が役立ちます(JIIMA=Japan Image and Information Management Association)。これは、電帳法の要件を満たしているシステムを認証する制度です。他社システムを検討する際、JIIMA認証の有無を確認すれば電帳法の要件を満たしているかどうか判断できます。

株式会社LegalOn Technologiesも、提供する人工知能(AI)契約管理システム「LegalForceキャビネ」においてJIIMA認証を申請中です。アジア企業との取引などで交わされる、さまざまな契約書も電帳法で保存が必要な文書に含まれますので、契約書管理ツールとして有力な選択肢の1つになると考えています。

次号は、電帳法の中でも特に法務の方が関係する、契約書に関して対応すべきことを詳しく解説していきます。

吹野加奈(ふきの・かな)

株式会社LegalOn Technologies法務グループシニアマネージャー、弁護士。2014年、慶応義塾大学法科大学院修了。15年に司法修習終了。16年、株式会社リクルートでインハウスロイヤーとして事業支援法務に従事した後、19年にLegalForce(現LegalOn Technologies)に参画。法務開発、LegalOn Technologiesのウェブメディア『契約ウォッチ』のリリース、法務部門の立ち上げを経て、現職。

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株式会社LegalOn Technologiesは2017年、大手法律事務所出身の弁護士2名によって創業(旧称LegalForce、22年12月に社名変更)。弁護士の法務知見と自然言語処理技術や機械学習などのテクノロジーを組み合わせ、企業法務の質の向上、効率化を実現するソフトウエアを開発・提供する。京都大学との共同研究をはじめ、学術領域でも貢献。19年4月よりAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」、21年1月よりAI契約管理システム「LegalForceキャビネ」、22年12月より米国でAI契約レビュー支援ソフトウエア「LegalOn Review」を提供している。

※アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2023年10月号<https://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。

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