新生マセラティの本領発揮。刺激的で退屈知らずのハイブリッド&スポーティSUV/グレカーレ・モデナ試乗

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太がついに上陸したマセラティ・グレカーレに試乗する。グレカーレに用意された3グレードのうち、今回は2.0リッターの直4ガソリンターボに48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた中間グレードの“モデナ”と、エントリーグレードの“GT”を選択。『グレカーレ』の世界を深掘りする。

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■走りのためのハイブリッドシステムe-ブースターの役割

 都市型SUVのマセラティ・グレカーレには3つのグレードが設定されている。“トロフェオ”と“モデナ”、 “GT”だ。“トロフェオ”にはスーパースポーツの『MC20』と同じプレチャンバーイグニッション(PCI)を適用したNettuno(ネットゥーノ)と呼ぶ、3.0リッターV6ツインターボエンジンが搭載されている。“モデナ”と“GT”が搭載するのは、2.0リッター直列4気筒直噴ターボエンジンに48Vマイルドハイブリッドを組み合わせたパワーユニットだ。

マセラティSUV第一弾『レヴァンテ』に続く、第二弾が『グレカーレ』。2022年3月にグローバルデビューを飾り、同年5月に日本でのオーダー受付がスタートした。“モデナ”の車両本体価格は1114万円(税込)。試乗車の外装色はブルー・インテンソ。
グレカーレ“GT”の車両本体価格は、922万円(税込)。試乗車の外装色はネロ・テンペスタ。

 マセラティといえばV8やV6といった多気筒かつ大排気量の高出力エンジンを思い浮かべるかもしれないが、2.0リッターとあなどることなかれ。『グレカーレ』の“モデナ”と“GT”が搭載するパワーユニットは多分に刺激的で退屈知らずである。

 このパワーユニットの性格を決定づけているのは、eブースターと呼ぶ電動コンプレッサーだ。アルミ製の軽いボンネットフードを開けると、排気側である左バンク側にボルグワーナー(BorgWarner)のロゴが確認できるコンプレッサーが見える。タービンは遮熱板に覆われて確認できないが、通常のターボチャージャーが1基搭載されている。

 “モデナ”の最高出力は243kW(330ps)/5750rpm、最大トルクは450Nm/2250rpm。“GT”はハードウェアではなく制御の違いで、最高出力220kW(300ps)/5750rpm、最大トルク450Nm/2000rpmを発生する。どちらも2.0リッターの排気量を考えれば大パワーで、高トルクだ。

“モデナ”と“GT”のパワーユニットは共通で、2.0リッター直4ターボエンジンに、BSG(ベルト駆動式スタータージェネレーター)と48Vバッテリー、e-ブースター。DC/DCコンバーターからなる48Vマイルドハイブリッドが組み合わされる。最高出力は“GT”に比べ、“モデナ”が30psアップの330psを誇る。

 となると、応答遅れ、いわゆるターボラグが課題として持ち上がってくる。高出力/高トルクを発生させるには大きなターボチャージャーが必要になるが、排気のエネルギーが充分得られるまでは過給圧が立ち上がらず、ドライバーはアクセルペダルを踏み込んでいるのに期待した加速が得られずフラストレーションが溜まる。

 そこでeブースターの出番というわけだ。排気のエネルギーが充分でないときはeブースターを作動させてコンプレッサーの回転を適切に保っておき、ドライバーのトルク要求に即応して過給圧を高める仕組みる。

 F1のパワーユニットが搭載しているMGU-Hがこれに似た働きをしている。MGU-Hは同軸上にモーター/ジェネレーターユニットを搭載するのに対し、『グレカーレ』の場合はeブースターを独立して搭載している違いはあるが。

 eブースターを働かせる原資である電気エネルギーは、ベルト・スターター・ジェネレーター(BSG)が賄う。減速時の運動エネルギーをBSGで回生し、48Vバッテリーに蓄える。48Vハイブリッドシステムの場合、回生して蓄えたエネルギーを補機駆動や発進〜低速時の弱アシストなどに使い、燃費低減効果を狙うのが通常だ。ところが『グレカーレ』の場合は、BSGで回生して蓄えたエネルギーをほとんど、eブースターの駆動に使う。燃費のためでなく、走りのためのハイブリッドシステムと言っていい。

グレカーレ“モデナ”のボディサイズは全長4845mm、全幅1980mm、全高1670mm、ホイールベース2900mm。試乗車はオプションのパノラマ・サンルーフを装着する。
マセラティ・グレカーレ・モデナ
マセラティ・グレカーレ・モデナ
“モデナ”の荷室容量は535リッターを確保。後席の背もたれは6対4分割可倒機構が備わる。倒すと床面はほぼ水平で、広大な空間が出現する。

■燃費の良さと満足な走り。“トロフェオ”にない“モデナ”ならではの魅力

 それで燃費が悪いかというとそんなことはなく、試乗で355km走った後に平均燃費計を確認すると11.3km/Lの数値を示していた。往路で高速道路を淡々と巡行している際は14.7km/Lの数字を確認した。車両重量が1950kgの4WDで、前面投影面積が大きなSUVであることを考えると、「望外にいい」というのが、燃費に関する個人的な印象だ。ちなみに、390kW(530ps)の最高出力を発生する3.0リッターV6ツインターボエンジンを積んだ“トロフェオ”は、試乗時に362.5kmを走って平均燃費は8.4km/Lだった。

 ステアリングホイールの奥にあるフルデジタルのメーターには、BSGが回生しているのか、回生したエネルギーを使ってeブースターを作動させているのかを示すメーターを表示させることができる。観察しながら運転していると、「eBoost」の針は頻繁に右側に振れ、eブースターが作動しているのがわかる。

マセラティ・グレカーレ・モデナ

 巡航スピードに到達すべく緩加速しているシーンなどでは、針が右側に振り切った状態が長時間続く。エンジンの回転数が低く排気エネルギーが充分ではないので、eブースターでサポートしているのだろう。過給圧を高めてトルクを出すのはあくまでコンプレッサーで、eブースターはサポート役に徹している様子がメーター表示からうかがえる。

 そのeブースターの働きが効いており、応答性の面で不足や不満を感じるシーンは一切なかった。アクセルペダルの操作に即応して力を出してくれるイメージだ。強く踏み込んだときの力強さは圧巻である。コンポーネントの構成に違いはあるが、『グレカーレ』のターボエンジン+BSG+eブースターは、F1のターボエンジン+MGU-K+MGU-Hの働きと共通している部分がある。

 F1はMGU-Kで回生したエネルギーでMGU-Hを作動させ、ターボの応答遅れ解消に使うシーンがある(それ以外にもさまざまな使い方をしている)。グレカーレはBSGで回生したエネルギーでeブースターをさせ、やはりターボの解消遅れに使用。数ある制御のほんの一部ではあるけれども、F1のパワーユニットと同じ働きをしていると思うと、感慨が深い(ちなみに、変速段が「8」なのもF1と同じ)。それに、適用しているクルマがイタリアンラグジュアリーなSUVであればなおさらである。

 センターのタッチ操作式12.3インチディスプレイには、ハイブリッドシステムのパワーフローを表示させたり、過給圧計やトルク計を表示させたりすることができる。手の込んだシステムの働きをリアルタイムに確認できるのも、この手の技術に興味のある層にはうれしい仕掛けだ。バリバリのスポーツカーではなく、日常使いができるSUVでこうした楽しみ方ができるのが驚きであり、魅力である。

マセラティ・グレカーレ・モデナ
インテリアはT字型デザインをベースにしたデザインで、落ち着いた印象。センターには、12.3インチと8.8インチのタッチ式液晶パネルを組み合わせたディスプレイが鎮座する。
マセラティ・グレカーレ GT
ステアリングスポーク下部の右側にはエンジンのスタート/ストップスイッチ、右側には、ドライビングモード切り替えスイッチを配置する。電子制御式ダンパーを装着する標準仕様には、コンフォート、GT、スポーツの3つのドライブモードから選択できる。
マセラティ・グレカーレ・モデナ
マセラティ・グレカーレ・モデナ
マセラティ・グレカーレ・モデナ

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