社説:出産費保険適用 負担軽減へ環境整備を

 出産の経済的負担を軽くし、安心して生み育てる環境を整えられるかが問われよう。

 政府は、出産費用に公的医療保険を適用する方向で検討を進めている。早ければ2026年度にも実現したい考えだ。

 岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」として、6月に打ち出した「こども未来戦略方針」で24~26年度の集中期間に実施する対策として盛り込んだ。

 出産費はけがや病気ではないとの理由から、帝王切開などを除き保険適用ではない。そのため医療機関が独自に設定している。

 出産費用は年々、増加傾向にある。厚生労働省によると、22年度に全国の公的病院で正常分娩の出産にかかった費用は平均46万円。10年前と比べて6万円近く上がった。

 保険適用となれば正常分娩の費用が一律となる。さらに岸田氏は4月、保険適用の際、原則3割の自己負担が生じないようにする考えも示唆している。出産をためらう負担要因を取り除く趣旨は理解できる。

 現在は、出産すると「出産育児一時金」が支給され、超えた分が自己負担となる。政府は4月、42万円から50万円に引き上げた。

 だが、一時金が上積みされるのに伴い、病院側が出産費用を増額する「いたちごっこ」が指摘されてきた。背景には医療機器や光熱費の高騰もあるが、「便乗値上げでは」との疑念が拭えない状況がある。

 焦点となるのは全国一律となる公定価格の設定だろう。

 22年度の出産費用を都道府県別で見ると、最も高いのが東京都の56万円。最も低い鳥取県の36万円と20万円の開きが生じている。

 出産の診療報酬を低く設定すれば、都市部の医療機関を中心に経営難に陥るとの声がある。多様なニーズへの対応など保険適用の範囲は丁寧な検討が必要になろう。

 厚労省は来春、医療機関ごとの出産費用を公表する。付加サービスが上乗せされ、不透明な出産費の明確化が期待される。公定価格検討の土台となるだろう。

 気になるのは財源の裏付けだ。未来戦略方針の3年間では児童手当の所得制限撤廃なども含め、年3兆円台半ばの追加予算が必要とされる。岸田氏は「実質的追加負担を求めない」と言うが現実味は乏しい。早急に示すべきだ。

 いかに地域医療の質を維持し、産院を支えるかも含め、透明性の高い制度設計が求められる。

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