ジェフユナイテッド千葉、小林慶行監督の「田口システム」で驚異の追い上げ!15年ぶりのJ1復帰は果たせるのか。

J1昇格プレーオフ出場権を巡る争いが激しさを増す明治安田生命J2リーグ。終盤戦で最も勢いのあるチームが、5位まで浮上してきたジェフユナイテッド千葉だ。

ヘッドコーチから昇格した小林慶行監督が指揮を執る今季は、2節から8戦勝ちなし(3分5敗)と大いに苦しみ、順位を一時は21位まで落とした。

その後もなかなか浮上できずにいたが、第26節・清水エスパルス戦(2-2のドロー)&第27節・町田ゼルビア戦(3-1で勝利)から徐々に追い風が吹き始め、第31~37節には怒涛の7連勝を記録した。

なぜ、千葉は突如として勝ち始めたのか。驚異的な追い上げを支えるダブルボランチの働きぶり、そして攻撃時に<4-3-3>へ変化する意図を、小林監督が影響を受けた指導者の存在から読み解いた。

直近5試合の基本システム

まずは、直近のリーグ戦5試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神はレギュラーの座を奪った鈴木椋大で、4バックは右から得点力を自身のプレーの特徴に挙げる髙橋壱晟、守備の要である鈴木大輔、左足のフィードも光る佐々木翔悟、積極的な攻撃参加を武器とする日高大の4人。

センターバックは新井一耀とメンデスの実力者2名も控えており、選手層の厚さはリーグ屈指だ。

ダブルボランチは、攻守の中心である田口泰士と今季はボランチを主戦場とする見木友哉のコンビ。守備力を高めたい局面では、小林祐介が頼りになる。

様々なタレントが揃う2列目は、右からロングスローでもチャンスメイクする田中和樹、確かなテクニックで攻撃をリードする風間宏矢、一発の怖さがあるドゥドゥという組み合わせ。

正確なクロスが強みの米倉恒貴、攻守で計算が立つ福満隆貴、熟練のドリブラー・高木俊幸ら異なる特長を持つアタッカーたちが、後半途中から流れを変える存在となっている。

1トップは、直近リーグ戦5試合で3ゴールと好調の呉屋大翔とチームトップのリーグ戦12得点を記録している小森飛絢が、文字通り熾烈なポジション争いを展開中。

第34節・ブラウブリッツ秋田戦と第38節・水戸ホーリーホック戦では、後半途中から両者を共存させる形が採用されている。

攻撃時に<4-3-3>へ変化する意図は?

終盤戦で一気に勝ち点を積み重ねているチームを支えているのが、高い技術を誇る田口泰士と見木友哉のダブルボランチだ。

9月度のJ2月間MVPに輝いた田口は、正確な長短のパスでゲームメイクする司令塔。上下左右にボールを散らして攻撃のタクトを振る役割を担い、不動の存在として君臨している。その右足はプレースキックでも生かされており、第37節・ファジアーノ岡山戦では、コーナーキックからメンデスの先制点をアシストした。

田口とコンビを組むのが、攻撃センスに長ける見木だ。これまで2列目のアタッカーで起用されることが多かった見木は、パスやドリブルなど攻撃性能全般に優れる万能型。2020年の加入以降、チームの軸として活躍してきた。

だが、プロ4年目を迎えた今シーズンは主にボランチでプレー。攻撃時は左インサイドハーフへポジションを上げて、積極的に前線へ飛び出していく。

前項で触れた通り、今季の千葉は<4-2-3-1>が基本システム(※守備時の布陣)だが、攻撃時は<4-3-3>へ変化する。田口がアンカー、見木が左インサイドハーフ(以下IH)、トップ下の風間宏矢が右IHへそれぞれ移動し、中盤が逆三角形になるのだ。(下図参照)

攻撃時に<4-3-3>へ変化する意図は何か。まず考えられるのは、「パスコースおよび攻撃の選択肢増加」だ。

構造上トライアングルを多く形成できる<4-3-3>は、パスを回しやすく、かつ幅を取りやすいシステムの代表格。<4-3-3>では攻守の軸となるアンカーの働きが肝となるが、正確な長短のパスを武器とする田口にとって、アンカーはうってつけのポジションである。

田口が前向きでボールを持った時、「IH化」する風間と見木が背番号4のパスコースを前方で確保。田口は一列前の風間または見木にボールを預ける形を第一の選択肢としつつ、一気のフィードで3トップを狙うorオーバーラップするサイドバック(以下SB)に良い形でパスを供給しようと目論む。

このように、アンカーの田口には常に複数の選択肢が用意されており、最善のチョイスを迅速に判断できる田口にとって、極めて理想的な状況だと言える。攻撃時に<4-3-3>へ変化する形は“田口システム”とも形容できる。

次に考えられるのは、「攻撃に厚みをもたらす」という点だ。これは主に、「IH化」する見木と攻撃参加が光る両SBを生かす目的がある。

前述した通り、見木は2列目を主戦場としてきたプレーヤーである。その背番号10を敢えてダブルボランチの一角に配し、攻撃時に「IH化」させるのは、後方からの攻め上がりが相手守備陣にとって捕まえにくいからだ。

このメリットが最大限発揮されたのが、第38節・水戸ホーリーホック戦の同点弾のシーン。田口を中心としたビルドアップで前進すると、佐々木翔悟から左サイドで張っていたドゥドゥにボールが渡る。

ドゥドゥは自身の後方でスタンバイしていた見木にパス。見木は一気の加速でマーカーを振り切り、ペナルティーエリア内に侵入していた日高大とのワンツーで自身もエリア内へ。フリーの状態で左足クロスを上げると、田中和樹が巧みに合わせた。(動画3分19秒から)

水戸守備陣は見木の動きに翻弄され、フリーでのクロスを許す形に。「4-4」の守備ブロックでスライドしながら守り、最後もエリア内の人数は足りていた(※水戸が9人、千葉が6人)だけに、見木の動きが守備ブロックを打ち破ったと言えるだろう。

今季の千葉は、両IHがエリア内(もしくはエリア付近)に侵入することで“実質5トップ”となり、そこにオーバーラップした両SBも絡むことで攻撃に厚みをもたらす形が多く見られる。この形こそ、小林慶行監督が求めるモノである。

指揮官の手腕と仙台時代の経験

今シーズンより指揮を執る小林慶行監督は、2021年にジェフユナイテッド千葉のコーチに就任。翌2022シーズンはヘッドコーチに昇格し、今季は監督としてチームを束ね、9月度のJ2月間優秀監督賞を受賞するなど優れた手腕を発揮している。

クラブ公式サイトによると、「影響を受けた指導者」に李国秀氏(高校時代)、オズワルド・アルディレス氏(現役時代)と選手時代の恩師に加えて、現在モンテディオ山形を率いる渡邉晋監督を挙げている。

「指導者としてのベースをすべて学びました」と表現する渡邉監督との関係性は非常に興味深い。

小林監督にとって、桐蔭学園高および駒澤大の先輩でもある渡邉監督は、ベガルタ仙台時代にコーチ&ヘッドコーチとして仕えた存在。2014年6月から渡邉監督が退任する2019シーズン終了までともに戦い、右腕として支えた。

渡邉監督は2020年10月に刊行された著書『ポジショナルフットボール実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』(カンゼン)の中で、<3-4-2-1>(※著書では[3-4-3]と表記)の1トップ・2シャドーに対する効果的な動きの落とし込みに関して、「(前略)最初からこうした明確なセオリーを選手に提示できたわけではありませんでした。本当に一緒に作り上げていく感覚でした。《レーン》については、特に石原(※直樹)と小林慶行コーチが何度も話をしてくれました」(p.39)と当時の小林コーチの働きぶりに触れている。

同書では、渡邉監督のサッカー哲学が随所にうかがえるのだが、とりわけ「一番大事なポジション」(p.107)と形容するボランチ論は示唆に富む。

「(前略)理想を言えば攻撃のとき、あるいは守備に切り替わったときも含めて、ボランチは1人でやってもらいたい、いや、1人でやれると考えています。その1人の立ち位置で、相手FWをどれだけ困らせることができるか。その1人の立ち位置で、相手のボランチをどれくらい食いつかせることができるか。(中略)ともすれば1人で5人を困らせるとか、そういったことができるようになると周りの味方にものすごく多くの時間とスペースが与えられるわけです」(p.107)

そう、この理論とリンクするのが、今シーズンの千葉である。守備時は<4-2-3-1>、攻撃時は田口泰士をアンカーに移す<4-3-3>という可変システムで戦い、ワンボランチの田口を崩しのキーマンとする形は、「(前略)ピッチ上の居場所がそうだからというのもありますが、やはりボランチは『心臓』なのです」(p.108)と語る渡邉監督の哲学と見事に重なっているのだ。

小林監督は、かつて仕えた渡邉監督の理論をベースとしながらも、攻撃において様々な形を取り入れている。ワンタッチないしツータッチで複数人が連動するリズミカルなパスワークで前進するほか、田口やセンターバックからのロングフィード(特に佐々木翔悟が秀逸)で一気に相手DFラインの裏を突くパターンもある。

こうした「前への意識」を強く持つと同時に、田口を軸としたセットプレー、田中和樹のロングスローといった“飛び道具”も有効活用して、相手に的を絞らせない攻撃を仕掛けていくのだ。多様な崩しがハマった結果、終盤戦の追い上げを実現できたと言えよう。

守備では<4-2-3-1>(※実際は1トップとトップ下が横に並ぶ<4-4-2>)へシフトし、前線からのアグレッシブなプレスを基本的な約束としつつ、戦況に応じて守備ブロックの位置を調節する。

フィールドプレーヤー10人でピッチを均等にカバーできる<4-4-2>は、守備においてもっともバランスが良く、計算が立つ布陣。アンカー脇のスペースを攻略されやすい<4-3-3>の構造的弱点を、<4-4-2>へシフトすることでカバーしている。

勢いを持続させて15年ぶりのJ1へ!

リーグ戦7連勝を記録するなど、驚異的な追い上げで5位まで浮上し、昇格争いを展開するジェフユナイテッド千葉。

5-0で勝利した第37節・ファジアーノ岡山戦後には、「前に前にというところが統一されてやることがハッキリしているために、切り替えの部分だったりも残り時間が少なくなっても変わらない。明確にそこを求めて、それを選手たちもしっかりと表現してくれているので、そのまま進んでいければいいなと思います」と小林慶行監督も手ごたえを口にしていた。

だが、続く第38節・水戸ホーリーホック戦は、課題が残る試合になった。退場者を出して数的不利になった相手に対し、前半のうちに追いつくことができたのは連勝中の勢いを感じさせたが、後半開始から5バックに変更し、自陣深くに<5-3-1>のブロックを敷く水戸を崩しきれない。

指揮官はシステムを基本形の<4-2-3-1>から<4-1-3-2>に変更して前線の人数を増やしたが、割り切って守る水戸の壁は厚く、相手の3倍以上となる21本のシュートを放ちながらも1-1のドローでタイムアップ。8連勝とはならなかった。

リーグ戦残り4試合およびJ1昇格プレーオフでカギを握るのは、やはりストライカーの存在だ。苦しい時間帯でネットを揺らし、いかにチームを救えるか。その意味で、呉屋大翔と小森飛絢に期待したい。

直近5試合で3ゴールと爆発の予感を漂わせる呉屋はもちろんのこと、大卒ルーキーながらチーム内で唯一ふた桁得点(12ゴール)を決めている小森が再び量産体制に入れば、これほど心強いことはない。

クロスに合わせる技術、点取り屋らしいゴールへの嗅覚とペナルティーエリア内の落ち着きは群を抜いており、第37節・岡山戦で奪った6試合ぶりのゴールを起爆剤にしたいところだ。(動画7分13秒から)

38節を終え、J1自動昇格圏内の2位・清水エスパルスとの勝ち点差は6。数字上は逆転の可能性が残されているものの、清水との直接対決はすでに消化しているだけに、J1昇格プレーオフ圏内の6位以内でのフィニッシュが現実的な目標となるだろう。

ひとつでも上の順位でリーグ戦を終えたいところだが、残り4試合の相手はいずれもタフだ。第39節の東京ヴェルディ、第41節のザスパクサツ群馬、第42節のV・ファーレン長崎は6位以内の座を争うライバル(東京Vは2位以内が視野に入る)で、激闘は必至。第40節のいわきFCはJ2残留を確定させたい相手ということで、(次節の結果次第になるが)堅い試合展開が予想される。

強敵&難敵との戦いを終え、無事にJ1昇格プレーオフに出場することができれば、終盤戦の勢いを生かしてアグレッシブに挑みたい。

プレーオフは準決勝、決勝ともに引き分けの場合、リーグ戦の年間順位が上位のクラブを勝者とするレギュレーションのため、最終的な順位がゲームプランを大きく左右するのは間違いない。終盤戦の7連勝はすべての試合で先制点を奪っており、いずれにしても“先手必勝”がキーワードになりそうだ。

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昇格プレーオフは2012年、2013年、2014年、2017年と過去4度出場し、いずれも敗れている。今の勢いを最後まで持続させて“鬼門”を突破し、2024シーズンを実に15年ぶりとなるJ1の舞台で戦いたい。

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