世界の人に自分たちをどうやって知ってもらうか(断髪令・廃刀令をいかに捨てるか)

先月までは、越境ECの基礎をまとめ、越境ECを始めるには自社サイトを持つか、ECモールのアカウントを開設して始めるかの2パターンがあることを説明し、それぞれの特徴を説明いたしました。

その際に重要なのは「越境EC=新天地」なのだから、商売の基本に立ち返る必要があるということをお話しました。改めて問いましょう。商売の基本とは何でしょう?

お金を稼ぐこと、利益を追求することという答えた人は惜しいです。それも基本ですが、それよりも重要な基本があります。それは「信用」があるかないかです。皆さんも経験があるのではないでしょうか。外国の聞き慣れない企業の商品だと若干の不安が付きまとったことが。

信用を得るにはどうすればいいでしょうか。まずはアピールすることです。そして実績を作ることです。そのためには粘り強さも必要です。

今でも「ネットは儲かる」「ネットはすぐに売れる」と信じ込んでいる人がいます。しかし残念ながら、これは20年前のネット黎明期のアーリーアダプターと呼ばれる、新しもの好きが飛びついていた時代の話です。もはやマジョリティと呼ばれる一般大衆が当たり前のように関わるようになってからは、商売のセオリーを無視して売れていくことなどありえません。

ネット黎明期には、「ネットの1年はリアルの7年」だと言われるほどネットはスピードの早い世界だと言われたものです。この説に乗るならば、リアル20年前の「ネットはすぐ売れる」を信じている人は、ネットに置き換えると140年前の情報を、つまり幕末・明治に得た情報が最新情報だと信じているようなものです。

実際、海外でもこういう石器時代並みの情報でECを始めてしまう人達を「Shiny-Object Syndrome(シャイニー・オブジェクト・シンドローム)」と呼び、嘲笑の対象になっています。翻訳が難しいですが、敢えて訳すなら「キラキラ目標症候群」でしょうか。「ネットはすぐ売れる」と考え、3カ月から半年で結果を出したいなどと言おうものなら、専門家は内心で呆れています。

コストかけずにアピールする方法はあるか

答えは「あります」。ただし時間はかかります。

時間をかけたくなければお金をかけましょう。お金をかけずに短期に効果を…なんてムシの良すぎる方法はありません。

あまりお金をかけずに行う方法は、なんといってもSNS(ソーシャルメディア)です。海外ではSNSを真剣にやらない企業には成功はないと思えと言われるほどです。

しかし、ここで本当にSNSなんて効果があるの? と疑念を持つ方もおられることでしょう。そのお気持ちは理解できます。しかし、その考えは日本の感覚で考えているのが原因なので、海外の感覚で考えていきましょう。それが分かると、考え方が変わると思います。

1、一日にSNSを使用する時間

We Are Socialというネットに関するデータ50カ国分をまとめた資料があります。それによると、一番SNSに接している国はナイジェリアの4時間36分なのですが、これは例外として、世界平均では2時間51分です。日本は50カ国中最下位の51分です。世界の3分の1しかSNSに触れていません。つまりここから、今の3倍投稿してみるだけでも影響は変化してきそうです。

なお、仕事としてSNSを利用している率というデータを見ると、世界平均が39.6%なのに対し、日本は9.6%とぶっちぎりの最下位です。したがって、海外に合わせる必要のある越境ECを行う場合は、マインドを変えられる人が成功すると言えると思います。

2、SNSの利用目的

1位は家族や友達とつながる(47.1%)、2位:暇つぶし(36.2%)、3位:ニュースを読む(34.2%)、4位:コンテンツを見つける(30.3%)、5位:何が話題になっているのかを探す(28.8%)、6位:すべきこと・買うべきもののインスピレーションを得るため(27.3%)、7位:買いたい物を探す(25.9%)と続きます。

ECに関連するものがトップ10に2つあります。これは世界平均で出していますので、地域別にするともっと数値の大きな地域もあります。

3、よく使われているSNS

1位:フェイスブック、2位:ユーチューブ、3位:ワッツアップ、4位:インスタグラム、5位:ウィーチャット、6位:ティックトック、7位:フェイスブック・メッセンジャーと続きます。

一方で「お気に入りのSNSは?」という問いに対しては、1位:ワッツアップ、2位:インスタグラム、3位:フェイスブック、4位:ウィーチャット、5位:ティックトック…と続きます。

また、商品探しの目的で利用するSNSを尋ねると、1位から順に、インスタグラム、フェイスブック、ピンタレスト、ツイッター(X)、ティックトック、レディット、リンクトイン、スナップチャット続きます。

そこで、これらを総合すると、フェイスブックとインスタグラムは基本中の基本、そして動画が効果的であることからユーチューブかティックトックも始めるのが良いと言えるでしょう。

(ここまでの出典:DIGITAL 2023 by We Are Social, Jan. 2023)

最後にもう一点SNSの重要性を示すデータをお知らせします。

(出典:Business Insider Intelligence、eMarkter, 2010)

このグラフは13年前の古いものです。オレンジの線は検索エンジンを使って、検索結果から目的のサイトを訪問した人を示し、青い線はSNSを辿って目的のサイトにやってきた人を示しています。

この両者が、13年前には五分五分になっています。つまり、SNSを無視して、SEO対策にばかり力を入れても半分近くの潜在顧客を見失うという機会損失を生み出します。この点からもSNSに本気なる理由があると言えます。

どの様に使うのか~本質を理解して使っているか~

ここまでで、いかにSNSを利用することが重要かが理解できたわけですが、だからといって、ただやみくもに情報を投稿していても効果は出ません。みんながやっているということは、みんなと同じことをしていてはダメなのです。

そこで海外の人の使い方や海外の人が評価する日本企業のSNSというのが気になるのではないかと思うので簡単に書いておきますと、一言でいうと「下手くそ」という評価に落ち着きます。

具体的に言うと、「商品案内」「新商品案内」に終始しすぎてコンテンツとしてつまらないということです。思い起こせば、日本人はBBS(掲示板)、ブログ、SNSと新しいツールがでてきても、時間がたてばただの「独り言公開日記」になっていました。それはあたかも黒船来航のように、舶来のツールが押し寄せてきたので、なんとなく使ってみているだけで、そのツールの本質を理解しないでいるせいです。冒頭で少し触れた幕末・明治のメンタリティーから変わってないと言えるでしょう。

では、SNS(ソーシャルメディア)の本質とは何でしょうか? 答えはもうツールの名前にあります。「ソーシャル」です。なぜわざわざ頭にソーシャルという単語をつけるのか。これが本質だからです。

つまり、「社会」です。これがオンライン化しているだけです。したがって、どうすれば人に好かれるか、どんな振る舞いが人に嫌われるか、これを考えればいいのです。

例えば会社の飲み会を想像してください。中にはこんな人いませんか?

酔うと、人の話を聞かずに自慢話ばかり始める人

若い頃の(かなり嘘くさい)武勇伝を語りだすオジサン

こういう人を目の前にしたとき、皆さんはどう思いますか? 私は、「うぜえ」と思います。早くこの場を去って、他の人の話の輪に入りたくなります。

SNSも同じだということです。「自分語り」だけでは周囲が離れるのです。企業SNSで言うところの「自分語り」とは「商品案内」「新商品案内」です。これをするなというのではありません。こればっかりではいけないというのです。

SNSは社会なのですから、コミュケーションを取ること、コミュニティを作ることが肝なのです。

従って、「商品案内」「新商品案内」という「自分語りコンテンツ」の他に、相手がリアクションを起こしやすくなるようなコンテンツも混ぜましょうということです。具体的にはクイズ、アンケート、クーポン等々です。

コミュニティができると、そこに参加する人は御社に対して情が湧きます。人間ですから情の湧いた相手への判断は鈍ります。つまり、ライバル会社、類似品と悩んだ時は情の湧いている企業を選ぶのです。

SNSはコミュニティを作る作るツールです。ですので、時間は掛かりますが、コミュニティができてしまえば、これほど強力な武器はないのです。ここでも短期間で結果を求める「キラキラ目標症候群」では成功しないのです。

まずは幕末・明治のメンタリティーからいかに変わるか、つまり、無意識の中にある断髪令と廃刀令を本当の意味で捨てられるかどうかにかかっています。

寄稿者 横川広幸(よこかわ・ひろゆき)ジェイグラブ㈱取締役

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