ナニワの元人気ラーメン店主、移住の兵庫・加西で再出発 桐谷さんの「桐麺」20日本格オープン

大阪で展開していた3店舗を畳み、加西市に新店を構えた桐谷尚幸さん=加西市北条町西高室

 大阪市淀川区などで人気ラーメン店「桐麺」を経営していた桐谷尚幸さん(41)が加西市北条町に移住し、同名の新店をオープンした。9年かけて築いた3店舗を閉じ、3人の弟子に別れを告げての再出発。すべてをリセットし、縁もゆかりもない加西市に店を開いたのはなぜ? 移住を決意した理由と、新生・桐麺の売りを聞いてみた。(伊田雄馬)

 体重約140キロの巨漢だが、表情は常にニコニコ。毎朝5キロ散歩する姿はよく目立ち、すでにかなりの住民から認知されている。下校中の小学生からあいさつされるとうれしげに返し、「大阪だったら、声かけるだけで不審者扱い。こっちはいいっすね」と笑う。

 妻の知子さん(40)と2014年、淀川区に同店をオープン。当初はしょうゆ、みそ、塩のオーソドックスなメニューだった。爆発的な人気を集めるきっかけは、3年ほど前に夏季限定メニューとして開発した「冷やし桐玉」だった。

 「釜玉うどんにヒントを得た」という一杯は塩ベースのたれに冷やした太麺を横たえ、上から生卵を落としただけ。ねぎ、チャーシュー、メンマなどの具材が一切ない、あまりにもシンプルな見た目がラーメン愛好家の心を捉え、交流サイト(SNS)を中心に反響を呼んだ。

 評判が広まると系列店には連日行列ができ、新型コロナ下でも勢いは衰えなかった。「他のラーメン店はどんどん売り上げが下がっていくのに、うちは右肩上がりに増えていった」

 だが、弟子に店を任せたことで自身はマネジャー業に専念せざるを得なくなった。厨房に立たなくなると、「おいしいラーメンで客を喜ばせたい」という原点からは遠ざかった。毎朝犬を散歩させ、子どもを保育園に送り届けた後、スポーツジムで汗を流す日々。一般的には「成功」のはずだが「全然おもんない」とむなしさが募り、再スタートを決意した。

 次の開店場所は兵庫県内で、空き家バンクを使って探した。昨年の秋ごろ、加西市に気に入った物件を偶然見つけると即決し、隣の土地に自宅を構えた。店はカウンターのみの11席。少ないように感じるが、夫婦2人でさばくにはぎりぎりの広さだという。

 冷やし桐玉(税込み千円)をはじめ、大阪時代のメニューは変わらず提供。一方、「故郷の福岡では一杯500円が当たり前だった」との思いから、ラーメン一杯が千円を超える世の中に疑問も抱く。

 もっと身近に-との思いを詰め込んだのが、「桐麺加西ハッピーラーメン」(同750円)。播州百日どりを主体としたスープに魚介だしを加え、地元の「高橋醤油」を使ったたれに合わせた。細い麺はかみ切りやすく、子どもからお年寄りまで食べられる。

 今月初めからのプレオープンを経て、20日に本格オープン。「しっかり集中してお客に向き合えるのは3時間」との思いから、営業時間は月、水、金、日曜の午前11時~午後2時。臨時休業の場合は、前日までにインスタグラム(@kirimen)で告知するという。

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