福井地震の遺産、路面電車「モハ62」解体直前に“救世主” 関東の鉄道ファン「将来に残したい」

「震災電車」の連結車両の前で新たな引き取り手となった笹沼さん(左)と握手を交わす北橋さん=福井県越前市村国4丁目

 1948年の福井地震による車体焼失から復活した福井鉄道の「震災電車」の連結車両として活躍後、福井県越前市内の民家敷地で長年保管されてきた路面電車「モハ62」。老朽化のため解体するという所有者男性の苦渋の決断に、神奈川県の鉄道ファンの男性が待ったをかけ、「将来に残したい」と譲り受けることを決めた。途絶えかけた車両の歴史に新たなレールが敷かれ、震災の遺産は再び受け継がれることになった。

 「震災電車」として知られるのは、福井市中心部を運行中に福井地震後の火災で車体が焼け落ちた「モハ61」。68年に2両編成の「モハ160形」としてよみがえった際、連結車両として復活運行を支えたのが「モハ62」だった。

 97年の引退後、廃棄されようとしていた車両を福鉄社員だった北橋幸治さん(75)=福井県越前市=が引き取り、自宅敷地内で保管展示。老朽化する車両の補修に努めてきたが、維持に限界を感じ、福井地震から75年となる今年6月中の解体を決めて準備を進めていた。

 「解体するなら譲ってほしい」。新聞記事でいきさつを知って連絡を入れたのは、電機メーカーで鉄道車両の技術職として勤務する笹沼健史さん(39)=神奈川県藤沢市。幼い頃から古い電車が好きで、これまでにも引退したローカル車両2台を引き取り、借りた土地などに所有している。12月中にも搬送する計画で、クレーンでつり上げてトレーラーに乗せ、笹沼さんの活動仲間が茨城県内で開設準備中の鉄道車両保管施設に運ぶ。

 「蒸気機関車ほど世間に認知されていなくても、残しておければ懐かしむ人もいるし、新しい価値も見つけてもらえるはず」と笹沼さん。福井地震の歴史が刻まれた車両だけに「いずれ福井に戻す動きが出てくるなら、その時までつなぐ役割を果たしたい」と話す。

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 北橋さんは「ローカル車両の最後はほとんどが鉄くずで終わってしまう。解体せずにすんで電車も幸せだろう」と感慨深げ。「よかったな」と慣れ親しんだ車体をなで、笹沼さんとがっちり握手を交わした。

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