嬉野発 「グリーンレタープロジェクト」 ~若き茶農家「16人」の挑戦 <その2>

前回、嬉野の若者の挑戦をお話しする前段階として、嬉野茶についてお話しさせていただきました。嬉野茶の特徴、少しお分かりいただけましたか。生産量が少ないので、なかなかお手に取っていただく機会が少ないかもしれませんが、ネット販売もしておりますので、是非一度お試しいただけましたら嬉しいです。

さて、今回は本題である若手茶農家の活動についてご紹介させていただこうと思います。

後継者不足~若手茶農家たちが立ち上がる~

特徴ある生産環境を持ち、味にも定評のある「うれしの茶」ではありますが、例に漏れず農家の高齢化、後継者不足は深刻です。また、お茶の需要が減ってきていることも継承をためらう原因にもなっています。そのため、後を継ぐ人がなく、耕作放棄されていく茶畑が増えていく現実を目の当たりにし、「うれしの茶」の未来に危機感を感じているのは親世代だけではありません。跡継ぎとしてお茶農家になった若い世代も、自分たちのこれから、さらに、その子ども世代に茶業を残していけるのだろうかと危惧していました。

そんな未来への危惧を払拭するために考え、立ち上げた取り組みが、今回ご紹介する『グリーンレタープロジェクト』です。

ひと筆添えた贈り物

このプロジェクトは2019年に当時21歳から39歳までの若手の茶農家16名で始めました。グリーンレターはグリーン(お茶)とレター(手紙)をつなげた造語です。そして、観光地である嬉野に来られたお客様が、大切な方へ手紙を送るようにお茶を送ってほしという想いで、手紙のように送れるお茶を商品化しました。

子どもたちが描いたグリーンレターの数々

「なんで令和のいま、手紙なのか??」そう思われる方も多いと思いますが、これはお茶が売れなくなったことに起因しています。お茶の売上が減っているのは家でお茶を淹れる習慣が減ったという側面もあります。しかし、もう一つ大きな理由があります。お茶かつては冠婚葬祭の返礼やお中元お歳暮など、贈答品の定番で、この贈答品の売上が大きな部分をしめていました。それが、時代とともに贈り物の形が変わり、贈答品としてのお茶の需要が減ってきています。

このことに着目し、新たな「贈る」形を提案しよう。そう考えて作った商品がグリーンレターです。幸い、嬉野は茶畑と観光地がとても近くにあります。

嬉野に観光で来られた方が、大切な方へお手紙を送るようにお茶を贈ってほしい。お茶を贈ることで大切な方に想いを伝えるきっかけになってほしい。

そのような期待を込めたプロジェクトです。

次世代を担う子どもたちの絵手紙

商品は、シングルオリジンが作れるという「うれしの茶」の特徴を活かしています。プロジェクトメンバー16人、それぞれが渾身の1種類を持ち寄り、一回分ずつ個包装してあります。その個包装したそれぞれのお茶に、子どもたちが描いた絵をラベル化したものが貼ってあります。

子どもたちのお絵描きをパッケージング

このラベルの絵は、佐賀県出身のミヤザキケンスケさんにご協力いただき、茶農家の子どもを中心にした嬉野の子どもたちとお絵描きイベントをして「お茶」をテーマに描いてもらったものの中から選んでいます。未来のための取り組みは、未来を担う子どもたちにも関わってもらいたいと思い、お手伝いをお願いしました。

このかわいいラベルが貼られた16種類の商品は、緑茶だけでなく、紅茶やほうじ茶、嬉野が発祥とも言われる釜炒り茶もあります。それ故、購入される方は、自分の好みや贈る方の好みをイメージし、お茶の種類とラベルのかわいさで楽しみながらお茶を選んでいただいています。

自分たちが販売促進を!

サガマド・ポップアップの風景

4年前、商品化したばかりの時は、ポップアップストアやイベントでの販売から始まりました。販売には、お茶農家自身が売り場に立ちました。しかし、販売に慣れているメンバーがいる一方、茶畑で黙々と作業するだけの生活しかしていないメンバーもいました。

慣れているメンバーと慣れないメンバーを一緒に組ませたりしましたが、意外とカタコトでお客様に接する姿も好感をもっていただいたようです。結果として、たくさんのお客様に声をかけていただき、商品のことだけでなく、自分たちの想いや取り組みの説明もできるようになっていきました。

そして、コロナ禍には「コロナ禍でなかなか会えない方に送るのにピッタリ」、観光客の方には「旅行に来て手紙とお土産が一度に送れるなんて素敵」「ありそうでなかった。考えた人はすごい」など、嬉しいお声もたくさんいただきました。

佐賀県内各地に浸透し始めた・・・

お茶と一緒にポストへ

プロジェクトを始めて5年目となるいま、イベントだけでなく、嬉野の主要な旅館、佐賀空港や佐賀県内のカフェなど常設で置いていただけるところも増え、少しずつ売り上げもあがっています。未来への不安から始まったプロジェクトですが、5年経過したいまでは、メンバーそれぞれの日常に入り込み、いい形で進んでいると自負しています。

まだまだ大成功にはほど遠いですが、地域活性の観点から見て、最初に立ち上げた16人が一人も欠けることなく、5年間日常的に活動を続けていけるケースは本当に稀なケースだとよく驚かれます。

次回は、この稀なケースになれている秘策についてお話ししたいと思います。

(これまでの寄稿は、こちらから)

寄稿者 高尾道子(たかお・みちこ) トラの巻 / 代表

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