社説:希少生物の危機 輸入大国、日本の責任は重い

 世界に約800万種が生息する動植物のうち、今後の数十年で約100万種が絶滅の危機にある-。

 国連の科学者組織がそう警告した現代は太古の寒冷化、隕石衝突などに続く「第6の大量絶滅時代」とされる。大半の要因はたった1種の人間の活動という。

 国際取引の規制で希少な動植物を絶滅から守る「ワシントン条約」採択から今年で50年だ。

 184カ国・地域が加盟し、商業目的の国際取引を原則禁止したパンダ、ウミガメをはじめ動物約6千種、植物約3万3千種を規制対象としている。

 乱獲などで絶滅寸前だった国内のアホウドリやシジュウカラガンが取引規制と地道な保護で個体数が回復に向かうなど、一定の歯止めとなっている。

 だが高額売買を狙った密猟や不正流通は後を絶たず、より珍しさを求める取引増加が、希少種の危機を広げている。輸入大国である日本の責任は重く、抜本的な対策強化が欠かせない。

 新型コロナウイルス流行下でペット市場は拡大した。世界自然基金(WWF)ジャパン推計で、未規制の野生生物の輸入は2018年の約28万匹から21年に約40万匹に、犬猫以外を扱う店が1割以上増えた。

 「展示カフェ」で人気となった東南アジアのコツメカワウソは、密猟などで30年間に3割以上減り、19年に商業目的の国際取引が禁止された。摘発された密輸で日本向けが最多だった。

 ペット用にカエル、イモリなど両生類の輸入も05年以降に2倍超に増え、野生からの捕獲が懸念される。両生類約8千種の40%は開発や乱獲で絶滅の恐れがあるとされるが、条約の規制は全体の約2%にしかない。

 経済取引で危機にある希少種が条約の対象のため、後追いになりがちだ。急速な市場拡大で手遅れとなる恐れに加え、外来生物に由来する感染症を広げるリスクや、在来種を脅かしている状況も見過ごせない。

 オランダは来年から、ペットとして飼える動物を限定し、他の飼育を禁じる方針で、世界で規制強化が進んでいる。

 調査の網を広げ、国内外の流通の監視を強めたい。ペット店やオンラインの取引内容の把握や経路の追跡などで、迅速な対処につなげる必要がある。

 世界で「悪目立ち」しているのが、希少種保護への日本政府の消極姿勢だ。アフリカ象絶滅の懸念から、1990年に象牙の国際取引が原則禁止されたが、国内市場を唯一維持している。絶えぬ密猟・密輸の温床だと国際的に批判されている。べっ甲細工の材料となるウミガメの仲間タイマイの甲羅も同様だ。

 輸出入を所管する経済産業省を中心に資源活用論が根強く残っている。環境省が前面に立ち、危機的状況にある生物の保護に軸足を置いた政策にかじを切るべきだ。

© 株式会社京都新聞社