「女性の服着たい」誰にも言えない秘密だった 35歳で自覚、トランスジェンダーの教員 灘中・高で講演

「性は多様。でも権利には不平等がある」と語る土肥いつきさん=神戸市東灘区魚崎北町8

 京都府立高校の教員でトランスジェンダーの土肥いつきさん(61)=京都市=が、灘中学・高校(神戸市東灘区)で講演した。35歳でトランスジェンダーと自覚した自身の経験や生徒たちとの出会いについてユーモアを交えながら語り、「セクシュアリティーはとても複雑で多様だからこそ、自由」と言葉に熱を込めた。(名倉あかり)

 同校の総合学習「土曜講座」の講師の一人として登壇し、15人の生徒が耳を傾けた。

 「突然ですが、私の性別ってなんだと思われますか?」。授業の冒頭、スクリーンに文字だけが映し出された。その後に「はじめまして」と初めて声を出してあいさつした土肥さん。「見た目と声のギャップで笑ってくれるんですけど」と苦笑しながらひげを生やしてパーマをかけた30代の自身の写真を見せ、生徒たちに生い立ちを語り始めた。

 体は男性として生まれたが「女性の服が着たかったし、女性の体を獲得したかった」。でもそれは、家族や友達、先生にも言えない秘密。「世界の誰にも言えないこと」と心の中に箱を作り、隠そうと思った。しかし「箱に入ってくるものが増えてきて、重たくなって沈んできた」という。

 部落差別や人種差別に苦しむ教え子に「仲のいい友達にルーツを打ち明けたら」と寄り添う一方、「何で言えへんねん」と思う自分がいた。どちらも人権問題として認知され、学校としても取り組んでいる課題。「自分の悩みはしんどいんじゃなくて恥ずかしい話だと思った」

 35歳でトランスジェンダーという言葉を知った。少しずつ、自分の思うように生きていこうと前向きになれた。

 生徒たちにはセクシュアリティーについて、社会的な性▽性自認▽身体の性▽性的指向-それぞれが絡み合っていることを説明。人を好きになるのかならないのか、どんな人を好きになるのか。「全てがバリエーションで、どれかが『正常』というわけではない」とし、「人の性は見た目で分からない。勝手に決めちゃだめ」と呼びかけた。

 最後には生徒からの質問に回答。「多様性に合わせるのが難しいと思ってしまう」という率直な声には「自分も多様性の中に埋もれた一人だとまずは考えると、世界の見え方が変わって楽しくなる」と笑顔で応じた。

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