90歳まで生きるなら、年金は71歳で受け取るのが得? 年金受取のベストな時期を考える

長寿化が進む日本において、生きている間ずっと年金をもらい続けられる公的年金は、いわば「長生きリスク」に備える保険です。

年金額を大きく左右するのが、「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」。年金は何歳で受け取るのが良いのか、メリット・デメリットはもちろん、手取り面も合わせて考え、自分自身で選択しなければなりません。寿命をまっとうした時でないと、どの受け取り方が良かったか正解はわからないものの、なるべくベターな選択をしたいものです。


年金にも税金と社会保険料がかかる 手取りで考えることを忘れずに

給料をもらうときは、「額面」から税金や保険料を引いた「手取り」が実質的な収入となりますが、年金も同様に額面と手取りがあります。

税金が天引きされるのは、65歳未満で年額108万円、65歳以上で年額158万円以上の老齢年金をもらっている人たちです。所得税、住民税、国民健康保険料(75歳未満)、後期高齢者医療保険料(75歳以上)、介護保険料が差し引かれるため、ねんきん定期便などで記載されている金額よりも手元に残るのは10~15%ほど少なくなることを覚えておきましょう。

年金額別・手取り・税金・社会保険料の目安早見表(65歳以上~75歳未満)

受け取れる年金額が変わる「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」

公的年金は65歳から受給できますが、タイミングを前倒しまたは後ろ倒しにもできます。60歳~65歳になるまでに受け取ることを「繰り上げ受給」といい、繰り上げ月数×0.4%の減額となります。

65歳~75歳になるまでに受け取ることを「繰り下げ受給」といい、繰り下げ月数×0.7%が増額となります。たとえば、老齢基礎年金額を79万5000円として、75歳から繰下げ受給した場合、84%の66万7800円が増額となります。

老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給タイミングをズラすこともできるため、一方を65歳から受給し、もう一方を70歳に繰り下げることも可能です。ただし、繰り上げの場合は同じタイミングでなくてはならないルールです。

繰り下げるほど年金額は上乗せされますが、寿命が短く年金を受け取れる期間が短いと、65歳から受け取った総額よりも少なくなります。

65歳から受給するより繰り下げたほうが、受給総額が大きくなる年齢は表のとおりです。額面と手取りの損益分岐点を示していますが、税金と社会保険料を支払った後の手取り金額で考えることが重要です。

「定年後のお金の不安がなくなる本」(晋遊舎)より

例えば、70歳で繰下げ受給した際に、65歳で受給し始めるより得になるのは額面ベースだと81歳11カ月のときです。手取りベースでは84歳1カ月のタイミングとなります。

なお、よく見ると、62歳のところだけ手取りベースの損益分岐点が遅くなっていますが間違いではありません。

65歳になると公的年金等控除額が60万円から110万円にアップすることにより、62歳の年金額面154.08万円が住民税非課税世帯に該当し、住民税がかからなくなるためです。

寿命が84歳なら68歳受給、90歳なら71歳受給が手取り面で最も得

繰り下げ受給により年金額は増額するものの、受給期間が短いと当然ながらその恩恵は受けられません。とはいえ、何歳まで生きるか、先に想定しておくのは難しいのも事実です。そこで、平均寿命を目安に、何歳から繰り下げると、65歳で受け取り始めるよりもお得になるか考えてみましょう。

厚生労働省の「簡易生命表」(2022年)によると平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳、男女平均は約84歳です。

平均寿命の実態により近い84~86歳まで生きると仮定した場合には、額面ベースで69~70歳頃から受給すると最も受給総額が多くなります。ただし、手取りベースで見ると、受給総額が多くなるのは68歳頃からもらい始めた方が良いです。

「定年後のお金の不安がなくなる本」(晋遊舎)より

女性の平均寿命が87歳であることから、寿命を多く見積もって90歳まで生きると仮定し、年金総額を考えてみましょう。

「定年後のお金の不安がなくなる本」(晋遊舎)より

65歳時点で180万円を受給しはじめた場合、90歳時点での額面総額は4500万円となります。70歳から繰下げた受給をした場合は、90歳時点での額面総額は5145.1万円です。最も額面総額が多くなるのは72歳から繰下げ受給を開始した場合ですが、手取りベースで考えると71歳から受給したほうが総額は多くなります。つまり、寿命が90歳の場合は、71歳受給が最も得するということです。

ただ、健康な時期にお金を使うほうが「お金を使う価値が高い」とも考えられるため、繰り下げた分だけ単純に良いとは言えないかもしれません。

どの受け取り方が良かったか正解は死んだ時にしかわかりませんが、66歳以降に受給する「繰り下げ受給」を視野に長生きリスクに備えておく戦略がベターだと思います。

定年後のお金の不安がなくなる本』

著者:頼藤太希
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