25年目で激動、クレイジーケンバンド「初期にまた戻れた」

ドラマー・白川玄大が加わり、新編成となって初のアルバム『世界』を9月にリリースした、「東洋一のサウンド・マシーン」ことクレイジーケンバンド(以下、CKB)。今回はメンバー自らが「シン・クレイジーケンバンド」と称しているように、ループや打ち込みもほとんど使わない純正のバンド・サウンドで録音されたにも関わらず、グルーヴの切れ味はむしろ倍増することとなった。

アルバム『世界』をリリースしたクレイジーケンバンド・横山剣(写真/バンリ)

近年に加わってきた若いメンバーたちが存在感を増し、通算23作目にしてあらゆる面で各人が潜在的ポテンシャルを発揮した会心作となっている。デビュー25周年にして再び新たな好調期を迎えたCKBについて、「歌うメロディメイカー」こと横山剣に語ってもらった(取材・文/吉本秀純)。

■「潜在的なポテンシャルがものすごく引き出せている」

──やはり2022年からゲスト出演していたドラマーに白川玄大さんを新たなメンバーとして迎えたことが、バンドに大きな変化をもたらしたと思いますが。

そうですね。やっぱりドラムは一番うるさい楽器で、うるさいわりに巧ければいいというわけでもなくて、ちょうどいい塩梅というのがあってですね。ドラムさえ良ければ興奮して、ほかのメンバーもまた興奮して、潜在的なポテンシャルがものすごく引き出せている状態に今、なりました。ま、親子ほど歳が離れていて、若いってのも最大の武器!

──ドラムが代わるというのは、車のエンジンを交換するようなものですし。

ホントにキューバのアメ車みたいに、エンジン新品で柄はクラシック・カーのままみたいな。そういう感じですね(笑)。

「潜在的なポテンシャルがものすごく引き出せている状態」と話す横山剣(写真/バンリ)

──それに加えて、近年にサウンド・プロデューサー&アレンジャーとして曲作りに関わってきたParkさん、コーラスのアイシャさんの存在感もより前面に出てきて、全体的に若返った印象を受けます。

Parkくんも30代ですけど、それでも親子可能な年齢差なので。僕はサウンドをメンバーに伝えるのが上手くなくて、「ピーッ!」とか「ギャー!」とか「ダッダッ!」とか、言葉じゃない音で伝えようとするんですけど、彼はちゃんとロジカルに言葉で伝えてくれるわけですね。

だから、メンバーへの通訳ができるので、脳内に鳴っている音が残尿感なく全部ドバっと出せるようになってスカッとします(笑)。以前はもうちょっと何歩か引いた感じでしたけども、今回は12人目のメンバーくらいになかに入ってもらってレコ―ディングをした感じですね。

■ やりたかったことに気付かせくれたニューアルバム

──そんな新体制で臨んだニューアルバム『世界』は、基本的にはこれまでの路線の延長線上ではあるんですけども。

そうですね。そんな変わったことはできないんですけども、ただ、やっぱり今までに何パーセントか出来なかったことが出来るようになった、という変化はありますね。アレンジ面とかサウンド面とかに。

今までだと、もっとアレンジしたかったけど「まぁ、このくらいか・・・」みたいに感じていた部分が、納得いくまでできるようになったというか。その分、時間はかかってしまいましたけど。

──全体的に、音の抜けや切れが明らかに良くなりました。

ミックスも高宮永徹さんに頼んでいて、ここんとこ3枚は高宮さんでしたけど、さらに良くなって。今回はハイもローもブッ込んでもらって、「なんかウチの音はヴォリュームが小さいな・・・」と、いつも音量を上げなくちゃいけなかった感じがなくなりました。

アルバム『世界』ジャケット

──なるほど。あらゆる面でより理想的なサウンドに改善できたわけですね。

あと、プラスアルファで自分がやりたかったこと以上のターボが入ったというか。自分でも気付いていなかった自分のやりたかったことに気付かせくれたところもあって、「あ、こっちの方がもっと自分のやりたいことだ!」と。だから、まだ現役できるなという気持ちにもさせてもらいました。

──そのあたりの新境地がハッキリ出ているのは、例えばどの曲ですか?

ま、今回はそういう曲ばかりを入れたんですけど、なかでも4曲目『SHHH!』という曲は、機械みたいに人間がドラムが叩いている曲で。昔から好きなJB’sというジェイムス・ブラウンのバンドとか、あとはザ・ルーツの(ドラマー)クエストラヴとか、ああいう感じになんないかなぁというのがずっとあったんですけど、白川くんもそういうドラミングが好きだったので、それが出来て良かったですね。

ちょっと打ち込みっぽくも聴こえるんですけど、まったくループとかは使ってなくて。クリックすらも気にしないで自由にやってもらって、こんな感じになりました。

──はい。今までのCKBにありそうでなかったグルーヴが新鮮です。

あと、最後の『観光』という曲は、最初はわりとカチッとしていてだんだんとイイ意味で乱れて激しくなっていく旅みたいな感じですけど、ウォー(War)というバンドのライブ盤を聴いたときに最初と後半で随分とテンポが違うのが良くて。

同時期に活躍したチカ―ノ系バンドのマロ(Malo)とかも、あまりクリックを気にしていないというか、そもそもクリックを使っていない感じで、みんな一緒にモタったり走ったりしていて、そういう感じに飢えていた部分がうまく出ていると思います。

──確かに白川さんは今っぽいマシナリーなビートもこなせますけど、そうじゃないものにも柔軟にちゃんと対応できるところが強みかもしれませんね。

たいがいそういうのが巧い人って、ツイストやロックンロールになると途端にダサくなったりするんだけど、白川くんはそういう曲でも重たくならず、ミニマムで粋な音を出してくれて。だから、センスが合うというか。(CKBは)いろんなドラマーが必要になってくる感じなんですけど、それを全部1人でやれちゃうんですよね。

■ 関西人はグッと来る? 曲に散りばめられた記憶

──また、関西人としては、ラテン・テイストな14曲目の『夜は千の目を持つ』で途中に入ってくる「ドゥ・スポーツ・プラザ」と歌う部分が、かつて「心斎橋クラブクアトロ」でライブをしていた頃に定宿にしていたホテル(※現在はすでに閉館)の名前であることにグッときます(笑)。

これは、2002年くらいに心斎橋のクアトロと長堀の東急ハンズの近くのドゥ・スポーツ・プラザを移動するときに「ドゥ・スポーツ、ドゥ・スポーツ、プラザ!」と歌いながら行き帰りしていたんです(笑)。それからしばらく忘れていたのがまた頭のなかで鳴り出して、じゃあ続きを作ろうと思ってこの曲になりました。

歌詞は「ドゥ・スポーツ・プラザ」と何の脈絡もないですけど、でも関係なくても屋号だけ残すというのが、台中に「宮原眼科」という名前のスイーツのお店があって。もともと眼科のビルだったのを名前だけ残してスイーツ専門店としてやっているのが面白いんですけど(笑)。

それと同じで、違う言葉に変えて音霊・言霊が弱くなるよりも、得体の知れない響きがある方が逆に神秘的になるだろうと思って、そのまま残しました。

アルバム『世界』をリリースしたクレイジーケンバンド・横山剣(写真/バンリ)

──その14曲目以降のアルバム終盤は、カンボジアのロックと寺内タケシにインスパイアされたギターの小野瀬さんのインスト『横浜美味礼賛』、パンジャビMCなどを思い出させるバングラ風のリズムの効かせ方もヒップな『観光』と、それまでに控えめだったエキゾチック~オリエンタル志向が濃密に顔を出してきて、最後はCKBらしく怪しい感じで終わる流れも良いですね。

そうですね。神戸の高架下みたいに、だんだんお洒落な店から丸玉食堂とか怪しくなってきて、首が2つある動物の剥製が置いてある店が出てきたりする、あの感じというか(笑)。鶴橋のアーケード街とかもそうですけど、ああいうグラデーション状に変化していくのは好きですねぇ。

──アイシャさんが自ら作詞もしながらリードを取った『残り香』、GTの掛け声でお馴染みなスモーキー・テツニさんが歌った『Sweet Soul Train』という中盤の2曲も新鮮でした。

はい、アイシャちゃんにも自分の世界を出してもらって、ホントに今回はバンドをやっている感じがしました。テツニもいつも「ジー・ティー!」と叫ぶだけじゃかわいそうだったし、お客さんからもテツニにも歌ってほしいという声がたくさん来ていたので、ホントは『TERIYAKI』みたいな曲の方が無理なく歌えるんでしょうけど、なんか逆にかわいい曲を歌ってほしいなと思って。映画『アメリカン・グラフィティ』のテリーみたいなイメージで曲を作りました。

■ 「もっとフェスとかも出ようよって(笑)」

──確かに今回は、仰ったようにすごくバンドっぽいですよね。

ビートルズの後期とかも好きだったりして、もうライブで再現不可能でもいいやというくらいに録音でしか出来ないことをやろうって気持ちが結構長くあったんですけどね。だんだんそういうのに食傷気味になってきて、ライブでも再現出来ないとダメだ! と思うようになってきました。

レコ―ディングでしか出来ないことをやったとしても、それをちゃんと実演でも出来るようにするというか、今までは実演で出来ない曲は封印してお蔵入りにしていたんですけど、どんな曲でも無理矢理にでもやるんだという気持ちに今はなっていますね。そういう部分で助けになっているのは白川くんの存在で、何でも考える前にトライしてみて、ダメだったらやめようと。

──バンドのフットワークも、良い意味で軽くなったと。

そう、フットワークが良くなったし、みんなヤル気が前が100だとしたら120〜130くらいになっていて、もっとフェスとかも出ようよって感じで(笑)。今まではフェスとかあんまり出たくなかったし、鎖国している感じでしたけど、来年はもっと増やしたいと思っています。

「ライブこそが生き甲斐と言えるほど大好きになっちゃった」と話す横山剣(写真/バンリ)

──お話を聞いていると前作『樹影』から1年くらいの間に、バンドとしてはかなり大きく変わった感じなんですね。

1年間で激動ですね(笑)。そもそも『樹影』のツアーをやる前にエキストラ(注:外部のミュージシャン)で呼んだのが白川くんだったんですけど、CKBを始めてこんなに楽しいと思えるツアーはなかった。正直、ライブが憂鬱な時期もあったんですけど、今はもうライブこそが生き甲斐と言えるほど大好きになっちゃった。

──それはあまりにも大きな変化ですね(笑)。

キーも『タイガー&ドラゴン』とかは1音下げて歌ってましたけど、白川くんになってからは元に戻して。歌に集中できるようになりました。僕だけじゃなくて、ほかのメンバーもみんな活き活きとしていて、初期のCKBみたいな感じにまた戻れました。

──では、アルバム発売後に10月から始まるツアーも何の不安もなく。

もう常にこの11人でライブを1年間やってきたので。白川くんはまだ過去の22枚のアルバムのなかに知らない曲がいっぱいあるんですけど、その場でリクエストで知らない曲がきても、口頭でリズムや曲の展開を説明して、それをせーのでいきなりやってもらう「白川玄大マジック・ショー」というのもやっています(笑)。

だから、今やろうと思ったことを今やれるようになって、いろんな面で抜けが良くなったし、もともとそういうバンドだったのが、だんだんそうはいかなくなって、クリックとかモニターがどうとか管理された状況にがんじがらめになったりして・・・。でも、今はそうではなくなって「アパッチ野球軍」みたいなワイルドな感じに戻れたのがうれしいですね!

アルバム『世界』をひっさげた全国ツアー『CRAZY KEN BAND World Tour 2023-2024』。関西は10月27日に「NHK大阪ホール」(大阪市中央区)、11月19日に「神戸国際会館こくさいホール」(神戸市中央区)、2024年2月12日に「京都劇場」(京都市下京区)で開催。

またビルボードライブツアーも決定しており、「ビルボードライブ大阪」(大阪市北区)では12月26日・27日に各日2公演おこなわれる予定だ。

『CRAZY KEN BAND World Tour 2023-2024』

日時:2023年10月27日(金)・18:30〜
会場:NHK大阪ホール(大阪市中央区大手前4-1-20)
料金:8800円
電話:06-6882-1224(GREENS/平日12:00〜18:00)

日時:2023年11月19日(日)・17:00〜
会場:神戸国際会館こくさんホール(神戸市中央区御幸通8-1-6)
料金:8800円
電話:078-231-8162(神戸国際会館/平日9:30〜18:00)

日時:2024年2月12日(祝・月)・17:00〜
会場:京都劇場(京都市下京区東塩小路町901 京都駅ビル)
電話:06-6882-1224(GREENS/平日12:00〜18:00)

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