<レスリング>【2023年全国社会人オープン選手権・特集】2度目の挑戦も完敗、しかしパラリンピックへの夢に揺らぎなし!…谷津嘉章(日本障がい者レスリング連盟)

右脚を切断したハンディにもめげず挑戦を続け、障がい者のためのレスリングの確立を目指す谷津嘉章(日本障がい者レスリング連盟)が、7月の全日本社会人選手権に続いて全国社会人オープン選手権に出場。ノルディック方式による予選リーグで2試合闘ったが、テクニカルスペリオリティとフォールで敗れ、壁の高さに再度ぶつかった。

初戦は全日本トップ選手でもある二ノ宮寛斗(不二精機)と闘い、3度回り込まれて0-6。3度目に横崩しを2度受けて10点差をつけられた。2戦目は全日本社会人選手権3位の佐々木太一(神奈川・横浜秋葉中教)が相手で、大外刈りでテークダウンされ、そのまま押さえ込まれてフォール負け。試合時間は1分26秒と39秒。全日本社会人選手権と同じく、第1ピリオドの壁を破れなかった。

▲3ヶ月半ぶりの挑戦も厳しい現実に直面した。それでも情熱は衰えない=第1試合

「厳しいね。勝てないね。勝つと思うこと自体、大それたことなんだろうけど…」と振り返った谷津。右脚を欠いた闘いは、普通の闘いの5分の1くらいの力しか入らないそうで、逆に言えば相手の5倍のパワーがなければ勝てない。頭の中では互角にできるはずがないことは分かっていても、実際にやってみて、想像以上の高い壁ということを実感したようだ。

だが、障がい者のためのレスリングを確立し、いずれパラリンピックの実施競技入りを目指す気持ちに揺らぎはない。

ハンディを埋めるルールが必要、今は試行錯誤の時期

2大会3試合を経験して感じたことは、やはり健常者相手の試合では差がありすぎること。そのため、ハンディをつける必要も口にする。あらかじめハンディ・ポイントを与えて試合を開始したり、10点差で試合が終わるテクニカルスペリオリティなし、フォール1回で試合が終わらず2回目でフォール決着、など。こうしたハンディキャップ・マッチでないと、「続く選手がいないでしょう」と言う。

障がい者といっても、自身のようにひざから下がない人間ばかりではなく、大腿部から下がない人や片腕がない人など様々。それらの人たちをひっくるめてのレスリングを確立するためには、いろんなことに挑み、実践してこそ、ルールが確立されていく。今は試行錯誤の時期。

日本協会に存在を明確に認めてもらい、専門委員会の設立も望む。組織化されてクリニックなどを開催してもらうことで、多くの人が参加してくれ、ルールやコーチングの方法も確立されていく。「その礎(いしずえ)ができてこそ、パラリンピックへの道につながる」と力説する。

▲1ポイントが遠い闘い。だが、挑戦は始まったばかり

0を1にするのは、1を2にすることの何倍ものエネルギーが必要と言われる。それに挑んでいるのが谷津。「パラリンピックの格闘技は柔道だけ。なんでレスリングはないのか。それに挑むことが自分の宿命だと思っています」と言う。

67歳の挑戦を熱っぽく話す谷津の隣には、72歳で試合に挑んだ日大の先輩である内藤可三・元オリンピック審判員がいた。「72歳にして情熱を燃やす先輩もいます。とことん挑戦しますよ」と話し、次の目標を来年初めの全日本マスターズ選手権に定め、引き続きの挑戦を宣言した。

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