京都アニメーションはこうやって放火された 裁判で判明した犯行の一部始終

京都アニメーション第1スタジオ 事件発生時の1階の状況

 36人が死亡、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判では、事件現場となった第1スタジオ(京都市伏見区)に居合わせた京アニ社員の証言や、被告本人の供述などから、未曽有の犯行の一部始終が明らかになった。その時、青葉被告はどう行動し、何を考えたのか―。

社員の目撃

 19年7月18日の朝。第1スタジオでは当時、70人の社員が働いていた。そのうちの1人が、入社2年目の女性社員だった。午前9時の朝礼に参加した後、1階にある自分の席でイベントの資料を作っていた。

 ドン、ドン、ドン…。玄関扉の自動ドアが開き、耳慣れない足音が聞こえてきた。視線を上げると、「赤いTシャツとジーパン姿の知らない男の人が立っていた」。3メートルほど離れた位置にいたその男は突然、手にしたバケツを振りまいた。鼻を突く燃料系の臭いがする液体は、女性社員の体や机に置かれた資料に勢いよくかかった。

 悲鳴を上げ、とっさに逃げようとする社員たち。次の瞬間、男は「死ね」と叫び、多目的ライターを近くにいた社員に突き出した。直後、オレンジ色の炎が1階天井まで上った。足音が聞こえてから炎上するまでは「10~20秒ほど」(女性社員)だった。

 法廷では、第1スタジオ1階の見取り図や、再現実験の写真がモニターに示された。証人尋問に出廷した男性社員は、男が建物内にあるらせん階段のそばに立っていたのを目撃した。

 「カチッ」。男がライターを点火したのは、複数の社員が作業するスペースの「目の前だった」。辺りが真っ白になるくらいまぶしく光り、熱風とガソリンの臭いが押し寄せた。ライターを向けられた社員は、両手で顔を守るようにして立ち上がった。その隣にいた社員は「うわ、うわ、うわ」と声を上げた。

被告の認識

 青葉被告は放火直前、近くの路地でガソリンを携行缶からバケツに移し替えた。その後、本当に実行するかどうかためらい、十数分間考え事をしていた。被告人質問で増田啓祐裁判長は、当時の心境について本人に尋ねた。

 ―スタジオにいる人を殺そうと思っていたのか。

 「間違いない」

 ―建物はどうなってほしかった?

 「漠然と、京アニなんかなくなってしまえばと」

 ―犠牲者はどのくらい出ると考えていたか。

 「7人、8人、9人くらい。たぶん2桁までは考えていなかった」

 犯行を決意した青葉被告は一度、第1スタジオの玄関扉が施錠されていないかを見に行った。扉が開くことを確認すると、バケツを持って再び侵入し、放火に及んだ。一方、犯行現場の光景はあまり覚えておらず、らせん階段があったことも記憶に残っていない。「とにかくガソリンをまいて火を付けるという一心だった」

 炎は青葉被告の体にも移り、急いで外に出ようとする際、自分を追い越して逃げて行く1人の社員が目に入った。体に付いた火は地面に寝転がって消した。警察官に取り押さえられ、搬送先の病院で麻酔をかけられたところで意識を失った。

 甚大な被害について、公判で「ここまで大きくなるとは思わなかった」と語った青葉被告。当時の認識について問われると、「目の前にいた(社員)2、3人が亡くなったと思った」と淡々と振り返った。

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 公判は第12回まで進み、事件の経緯や動機に関する審理は終了した。今月23日の次回以降は、最大の争点になっている刑事責任能力の審理に移る。12月に結審し、来年1月に判決が言い渡される。

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