エンゲル係数の今

 経済白書の序文で〈もはや戦後ではない〉と、戦後の混乱や貧しさからの脱却を宣言したのは終戦から11年後、1956年のこと。その後の流行語をたどれば、61年に「レジャー」、62年に「マイカー時代」と、少しずつ豊かになるさまがうかがえる▲家計が苦しければ「食べるのに精いっぱい」、余裕ができればレジャーにも、車にも、趣味にも、おしゃれにも出費を回せる。家庭の支出に占める食費の比率「エンゲル係数」が高いほど暮らし向きは悪く、低いほど良くなる、と学校で教わった覚えがある▲戦後日本のエンゲル係数は下がり続けた。終戦の3年後は60%、2000年代は23%前後にまで下がったが、その後は上昇傾向に転じる▲共働きやお年寄りだけの家庭が多くなり、総菜、弁当、外食の費用が増したためとされる。どうやらエンゲル係数では豊かさが測れなくなったらしい▲では、この数字はどうだろう。今年に入ってからは26%を超え、40年前のレベルに等しいという。もちろん、食事がぜいたくになったからではない。食品の値上がりが響いている▲収入はさほど上がらないのに、生活費、とりわけ食費がぐんぐん上がる。エンゲル係数が高いほど暮らしは苦しくなります…。悔しいかな、遠い昔に教わった「目安」が、またも当てはまる。(徹)

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