「日本はUFOのホットスポットだ」アメリカ国防総省がまじめに指摘 日本政府はどう考えている?「想定外」を議論する必要性

米海軍が撮影した未解明の空中現象とされる映像の一こま。軍人らしき人が「回転しているぞ!」などと驚く声も記録されている(米国防総省提供)

 今年8月、アメリカ国防総省のある部署が開設したウェブサイトに、衝撃的な情報が掲載された。
 ひと言で言えば、「日本は『未確認異常現象』(UAP)報告のホットスポット」だというのだ。
 UAPとは、ごく簡単に言い換えれば未確認飛行物体いわゆる「UFO」などの総称。つまり「日本はUFOの目撃例が多い」に等しい。正直言って驚いた。私はUFOに遭遇した経験など一度もなく、存在すら信じてこなかった。ただ、アメリカの政府機関が真面目に公表した情報だと考えると、軽々しく「まゆつばだ」と切り捨てるのもどうかと思った。
 もやもやしながら考え始めると、次々に疑問が浮かぶ。なぜ日本なのか?UFOが飛来しているのなら、日本政府は今までどう対応していたのか?同盟国のアメリカ政府の報告を、政府はどう受け止めているのか?
 そこでUFOを巡る国内事情や、政府対応などを調べてみた。すると、アメリカ軍が識別不能な物体を実際に撮影し、日本に遭遇時の「対処方針」が存在するなど、驚くべき実態が分かった。詳細に入る前に、現在の率直な心境を記したい。「今まで『UFO話は怪しい』との固定観念に縛られ、深く考えてこなかったことを反省している」(共同通信=中田良太)

米国防総省「全領域異常対策室」(AARO)のウェブサイト=10月19日撮影

 ▽UFO報告は合計800件
 報告書を掲載したアメリカの政府機関は、「全領域異常対策室」(AARO)。2022年7月に発足し、サイトでこう宣言している。
 「(UFOなどについて)厳格な科学的手法とデータに基づいて解明に取り組む」
 このサイトによると、UAPには水中の物体なども含まれる一方で、「宇宙人の乗り物」などとは書かかれていない。判別できないものは広く対象としている。
 アメリカ政府は、いわゆるUFOなど空中の未確認現象について、情報機関を統括する国家情報長官室が今年1月、2022年の年次報告書を公表している。それによると、AAROに寄せられた分も含め、2022年8月末時点で合計510件の報告があった。このうち、日本が何件含まれるのかは不明だ。
 報告例のうち、多くはアメリカ海軍や空軍のパイロットらが、任務中に遭遇したものだという。実際にそれが何かを突き詰めていった結果、無人機や気球、ポリ袋だったケースがあったものの、「解明できていない事例」もあったとしている。

 さらに、国防総省と国家情報長官室は10月17日付で、新たに連名の報告書を公開した。こちらは空中以外のUAPも対象で、それによると2022年8月31日~今年4月30日の間にAAROへ274件の報告があった。また2019年~2022年分に17件が追加された。海での報告例は1件、他は空中だった。この結果、「2023年4月30日現在、合計801件のUAP報告を受けた」となった。

2022年2月に福島市で撮影されたという「UFOの写真」。中央上空に発光しながら「飛行」する物体が写っている(国際未確認飛行物体研究所提供)

 ▽サイトに「UFO映像」
 AAROのサイトではUAPの映像も紹介している。民間機と判断されたケースもある一方で、識別できていない物体もある。はっきり言って、目を疑うような映像ばかりだ。
 中東で撮影されたという映像では、球体のようなものが画面上部の中央右寄りから左下方向に向かい、すーっと移動していく。その正体は「特定されていない」。
 アメリカ海軍が撮影した別の映像では、画面中央に円盤のような物体が映っている。軍人らしき人が「なんてこった」「回転しているぞ!」と驚く声も記録されており、緊迫した様子が伝わる。

AAROサイトで公表された「UAP報告のホットスポット」を示す世界地図。西日本やその近海が赤や黄色で色づけされている(米国防総省提供)

 ▽日本は「UAP報告のホットスポット」
 サイトではほかに、UAPの特徴なども紹介している。
 1996年~2023年の報告に基づく典型例は円形だ。大きさは1~4メートル、色は白、銀、半透明といったものらしい。上空1万5千~2万5千フィートでの目撃が多い。
 気になる「日本がホットスポット」という指摘は、サイトに表示されている世界地図でなされている。西日本やその近海が、ホットスポットを意味する赤色や黄色に色付けされているのだ。ただ、具体的な報告件数や内容に関する説明はない。地図を見る限り、アメリカや中東もホットスポットのようだ。
 何らかのUAPが日本付近に少なからず出現しているのだということになる。

取材に応じる「ムー」の三上編集長=10月17日、東京都台東区

 ▽「UFOの目撃報告は戦前から日本全国である」
 果たして日本にはどれだけ目撃例があるのか。誰に話を聞いていいのか分からない。悩んだ結果、まずは世界のミステリーを探求する雑誌「ムー」の編集長で、国際未確認飛行物体(UFO)研究所(福島市)所長を務める三上丈晴さんに尋ねた。
 すると、三上さんは明快に言い切った。「民間を含め、日本では戦前からUFOの目撃報告がある」。見間違いもあるため正確な件数は不明だが「相当数に上る」という。
 三上さんによると、「UFOの目撃」は西日本に限らず全国で報告されてきた。確かにUFO研究所のサイトにある「UFOの写真」は、福島や長野県の近傍で撮影されたと書かれている。
 ではAAROが、西日本やその近海をホットスポットとしているのはなぜか。この点を尋ねると、三上さんは、この地域で任務に従事するアメリカ軍や自衛隊などが覚知している可能性を指摘した。ただ「東日本などを含まない理由は判然としない」
 ここで最も聞きたかった質問をした。AAROが掲載した情報の中に、果たして宇宙人関連のものはあるのだろうか。三上さんは「可能性は排除しない」としつつ、こう指摘した。「UFOは識別不明の飛行物体全般を指す。地球外だけでなく、どこかの国から来たことも想定するべきだ」
 ちなみに、三上さんによるとUFOには空中から海に潜るタイプもあるという。また、海中の未確認物体「USO」なども多数の報告例があるそうだ。

防衛相として記者会見に臨む河野太郎氏=2020年7月、防衛省

 ▽日本政府の「UFO対処方針」
 UFOが出現した場合、日本政府はどう対応するのだろう。
 2020年9月、当時の河野太郎防衛相は、識別不能の物体を確認した際の対応について自衛隊に指示を出している。指示の内容について、河野氏は自身の公式サイトで「UFO対処方針」と題して紹介している。
 この方針を要約すると、領空侵犯に対する措置などにおいて、空中で識別不能な物体を確認したり、情報を得たりした場合、記録の保存や報告・分析に万全を期す、となっている。
 河野氏は当時の記者会見で、対処方針について説明した。
 「ただ宇宙から来たかもしれない未確認飛行物体を探そうということではなく、もう少し地に足がついた情報収集と考えてよい」
 この発言の念頭には、他国が飛ばした物体の可能性があるとみられる。
 松野博一官房長官は、今年9月の記者会見でアメリカとの連携に言及している。
 「空中における識別不能の物体も含めたわが国の安全に関わる事象については、米国と平素から緊密に連携し、情報共有、分析等を行っている」

東京・市谷の防衛省=2022年8月

 ▽防衛省は「公表すべき事案は確認されていない」
 では、その「識別不能な物体」に関する報告は、何件ぐらいあるのか。防衛省は今年3月の衆院安全保障委員会で、日本維新の会・浅川義治衆院議員に尋ねられ、こう答弁した。
 「大臣の指示が発せられて以降、公表すべき特異な事案は確認されていない」
 指示が発せられる前についても「米国で言うUAPは特段、大臣指示の発出以降観察されてきた状態とそれほど変わっていないのではないか」と述べた。
 ただ、自衛隊の運用の細部に関わるため、具体的に公表していない案件もあるという。その中には公表対象外の航空機や鳥の大群といった「いろいろなもの」がある、と意味深とも取れる答え方をしている。

宮城県上空に出現し「謎の球体」と話題になった飛行物体=2020年6月17日、仙台市

 ▽「中国の偵察気球」は飛来の数年後に発表
 AAROが日本はホットスポットだとする一方、防衛省は「公表すべき事案はない」と言う。この点に関する考察は控えようと思う。私が取材する意図は、「政府がうそをついている」といった陰謀論を唱えることではないからだ。
 一方で、飛行物体の中には出現から数年後に公表された例もあることは紹介しておきたい。「中国が飛ばしたとみられる気球」だ。
 今年2月、防衛省はこんな発表をした。
「2019年11月に鹿児島県、20年6月に宮城県、21年9月に青森県のそれぞれ上空で確認された計3件の飛行物体は、中国が飛行させた無人偵察用気球と強く推定される」
 この話は、出現した当時に「謎の球体」としてニュースになったが、出所などに関する政府の発信はなかった。発表されたのは、米国上空に飛来した中国の気球が問題視された後だ。
 防衛省は今年4月の衆院安全保障委員会で、覚知した飛行物体などの公表に関し、こう説明している。
 「分析の結果、国民に知らせるべき事実が判明した場合には、わが方の情報収集能力などを明らかにしない範囲だが、後に公表を行うこともあり得る」

取材に応じる日本維新の会の浅川衆院議員=9月19日、国会

 ▽積極的な情報開示求める声も
 安全保障上、公にできない事柄があるのは仕方ないだろう。一方、UAPを巡るアメリカの動きを受け、今後、日本政府も積極的に情報開示するよう求める声もある。
 昨年2月以降、国会でUFOを巡る問題を取り上げている維新の浅川義治衆院議員は、UFOなどの出現に関し「情報をオープンにし、民間の知見も動員して科学的に分析するべきだ」と話す。
 その理由としてこう述べた。「未知の技術が新たな脅威になる恐れがある。他国の最新技術だった場合、研究内容を把握し、素早く対応できるようにしなければならない」
 安全保障上の論点になり得るという点は、ムー編集長の三上さんも同意見だ。「他国の最先端技術を用いた軍事研究を想定する必要がある。ドローンが普及した近年、現実味は増しているのではないか」。アメリカが主体の可能性も考えているという。
 加えて、浅川衆院議員は「民間機の飛行に支障が出るなど、航空安全上の懸念もある」と語る。確かに、AAROによるとUAPは民間機が飛行する高度に出現している。万が一、衝突した場合のことなど考えたくもない。
 こうした点を踏まえ、浅川衆院議員はUFO目撃を報告しやすい社会環境の必要性を訴える。「『UFOを見た』と話す人が変な目で見られるようでは言い出しにくい。注意喚起や対策の検討にも支障が出る」

中東で撮影されたという未解明の空中現象とされる映像の一こま。中央の球体のような物体が左下方向に移動する(米国防総省提供)

 【取材後記】
 UFOについて語る時、「信じるのか、信じないのか」という都市伝説や陰謀論の議論に行き着くことは少なくない。私は「信じない」立場で生きてきたし、それ以上は考えてこなかった。
 ただAAROが「未解明」とするUAPがあることも事実だ。出現したことを前提にすると、さまざまな論点があることが分かる。
 三上編集長はこんな指摘をしている。「UFOを短絡的に『宇宙人の話』に飛躍させると、冷静な議論ができなくなる」。これは安易に陰謀論に結びつける態度も同様だろう。
 浅川衆院議員は国会で政府にUFOについてただす理由を、こう述べている。「政治において『想定外の事象』を議論することは必要だから」
 UFO以外の事例も考えれば、想定を超える災害などは現に発生している。「あり得ない」という先入観から思考停止に陥ることこそ、危険なのかもしれない。狭い視野で物事を見ていた自らの姿勢を、今では反省している。
 UFOを巡る議論の今後は見通せないが、未知の存在や技術が現実になるケースは多々ある。今では当たり前になったインターネットやスマートフォンも、そうだったのだから。

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