「ネットへの書き込みが名誉毀損と言われ…」和解金、適正な額は?

インターネット上では、SNSや掲示板、ネットニュースのコメント欄など、誰でも自由に自分の意見を書き込める場が増えました。しかし、書き込みの中には「こんなことを書いていいのか?」と、目を疑いたくなるようなコメントも見受けられます。最近は、ダイレクトメール機能を利用して、直接メッセージを送るケースもあります。

今回は、インターネット上の書き込みについて、弁護士の観点から解説していきます。


書き込み主の勘違い

インターネト上の書き込みは、匿名性であるため、自分が書き込みをしたと知られることはないと思っている方が多いのではないでしょうか? 確かにコメント欄に表示される名前やIDなどから特定するのは困難ですが、適切な手段を踏むと、実際は書き込みをした人が誰なのか特定できるケースが多いです。どういう調査過程をたどって個人情報が特定できるかはさておき、最終的には、名前と住所を明らかにすることができます。

名前と住所が分かれば、郵便物を送ることができますから、ある日突然、内容証明郵便や裁判所から訴状が届く、ということがあります。内容証明郵便や訴状が届く前に、書き込みをしたサイトから「あなたの書き込みについて、個人情報の開示が求められていますよ」という連絡が来る可能性もあります。

個人情報の開示手続きは、個人でも行うことができますが、手続きが煩雑なので、弁護士に依頼される方が多いのではないかと思います。弁護士が代理人となって内容証明郵便を送る場合は、たいてい書き込みをしたことが特定されたので、不法行為に基づく損害賠償請求をすること、いくらかの金銭の支払いをしていただけるなら和解をする、という内容になっていることが多いです。

和解金の適切な額

弁護士からの内容証明郵便を受け取った場合、選択肢としては以下の2つになります。

(1)支払いをして和解をする
(2)支払いをせず和解をしない

支払う金額については、交渉が可能なケースもあります。和解のために請求された金額だけを見て無理だと諦めずに、まずは内容証明郵便に書かれている代理人弁護士に「和解をしたいが請求された金額の用意が難しく、減額できないか」と伝えてみるといいです。

この交渉を弁護士に依頼することもできますが、弁護士に支払う費用があるのであれば、和解金の支払いに充てたほうがいいようなケースも多いです。判断に迷うときは、弁護士会の法律相談を利用されてもいいかもしれません。

和解をすれば、訴訟に発展することはありませんから、ご自身が確かに書き込みをした場合には、適切な額の支払いであれば支払いをして和解をすることを弁護士としてはおすすめします。では、適切な額とはどの程度の金額なのでしょうか?

その話をするためには、まず、書き込みがどういう法的根拠で不法行為になるかについて、説明する必要があるでしょう。

代表的な例は、名誉棄損、侮辱になると思います。いずれも直接、民法が「こういう行為が名所棄損になりますよ」「侮辱になりますよ」と規定しているわけではないですが、基本的には刑法の規定と同様に判断しています。

名誉棄損の刑法上の規定は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する」(刑法230条1項)となっています。これは、不特定の者に伝わる可能性がある状況で、一般的に社会的な評価を低下させるような事実を適示して、特定の人の社会的地位を低下させたときは、名誉棄損になりますよ、という規定です。このとき適示する事実は、それが真実であるか虚偽であるかを問題としません。

侮辱罪の刑法上の規定は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」(刑法231条)となっています。こちらは、名誉棄損と比較した表現になりますが、不特定の者に伝わる可能性がある状況で、特定の人に対して悪口(※)を言ったときは、侮辱になりますよ、という規定です。
※「侮辱すること」と表現することが多いですが、侮辱が何かの説明のため、「悪口」と表現させていただきました。

名誉棄損よりも、侮辱の方が成立の条件が緩やかなので、名誉棄損が成立しない場合に、侮辱にならないかが検討される、というイメージを持っていただいて構わないと思います。

民事上の不法行為が成立するためには、上記の刑法上の名誉棄損や侮辱に該当するだけでは不十分です。名誉棄損や侮辱によって、「損害」が発生していなければいけません。この「損害」が損害賠償の金額になりますし、和解のための適正な額の判断基準となります。

企業に対する名誉棄損

例えば、企業に対して名誉棄損となるような書き込みをした場合、これによって営業損失が出たことを企業側が証明可能なのであれば、その営業損失が「損害」になります。したがって、損害賠償の金額は比較的高額になりますし、和解のための適正な金額も合わせて高額になってきます。

実際にどういった書き込みが企業に対して名誉棄損を構成するのか、というのは、とても複雑な問題になります。というのも、公共性と公益目的がある場合であり、公表した内容が事実であると自ら証明した場合は、名誉毀損の要件を備えていても責任追及を免れると考えられているからです。真実であることの証明については、前提とする事実が重要な部分について真実であることの証明があれば足りると考えられています(最判:平成9年9月9日)。

また、真実であると書き込みをした人が信じていたが、実際は信じではなかったような場合については、誤信につき確実な資料・根拠に照らして相当の理由がある場合には、名誉毀損罪の故意が否定されると考えられており、免責が認められると考えられています(最判:昭和44年6月25日)。

企業活動については、内容によっては公共性と公益目的が認められる可能性があると思いますが、免責されるのはあくまでも例外なので、基本的には免責されない可能性が高いということは念頭に入れて、注意喚起の投稿をするか否かを判断してください。

個人に対する名誉棄損

では、営業損失を考慮できないような、個人に対する名誉棄損の場合にはどうでしょうか?

多くの場合、精神的な苦痛に対する慰謝料として、損害を補償することになります。この場合、計算式や数的な根拠を示して「これだけの損害が発生しましたよ」と証明することが困難です。被害者の方は大きな金額を示しがちですが、実際に裁判をベースに考えると、数万円から数十万円程度に落ち着くことが殆どです。

したがって、和解の時に数百万円の金額を掲示されている場合には、はたしてそれが適切な金額と言えるのか、弁護士などの専門家に相談するべきだと考えます。適切な金額は事案によって異なってきますので、自分の肌感覚だけで判断することは控えたほうがいいでしょう。ただし、身に覚えがある書き込みなのであれば、その行為によって確かに相手を傷つけたわけですから、できるかぎり真摯な対応を行い、誠心誠意謝罪をして、自分自身の過ちを深く反省していただきたいです。

訴訟に発展した場合

結果、和解がまとまらず訴訟に発展した場合、その後はどのように手続きが進むのか簡単に説明いたします。被害者が訴訟を提起すると、訴状が届き、裁判が始まります。訴状は自宅に届きますから、その時点で家族に発生している問題が知れてしまう可能性があります。

相手の請求に納得できずに名誉棄損の成立を争う場合には、半年から1年程度、裁判が続きます。その後、裁判所でも和解の提案がされ、そこでも和解が出来なければ、判決になります。判決で被害者にお金を支払なさいと判断された場合、不服があれば第二審に進むことが出来ますが、第二審に進まない場合には、判決が確定します。早期に被害者に支払いをするべきですが、ここで支払いをしないでいると、給与債権を差し押さえられたり、銀行の口座を差し押さえられたり、ご自宅の不動産を差し押さえられたりする可能性が出てきます。給与債権の差押を受けると、会社に「どういう書き込みをして、裁判で敗訴したのに、支払いをしていません」ということが伝わってしまいます。あまり知られたくないことだと思いますので、判決が出た場合は、きちんと被害者に支払いをしましょう。

裁判を起こされてこれに応じる側であても、弁護士に依頼すれば弁護士費用はかかりますし、ご自身で対応する場合には、裁判所に提出する書面の作成や平日の仕事の時間に指定される裁判に出席する必要が出てくるという点もポイントです。まったく負担なく裁判を終えるということも難しいですから、和解をするかしないかを選択する際には、その点もきちんと考慮したほうがいいでしょう。

私も弁護士として、過去に「知り合いが不倫していないのに、あたかも不倫をしているかのような投稿をしたことが本人にばれてしまい、そのことで責任追及をすると言われている。どうすればいいでしょうか?」という相談を受けたことがあります。今更削除しても、その時の書き込みをなかったことにはできませんし、実際にしていない不倫のことで、その方の家庭は大混乱になっていることでしょうから、相手に謝罪をして許してもらう以外に、ことを収める方法なんてありませんよ、というアドバイスしかできませんでした。書き込んだときは面白半分でも、時間が経ってことが大きくなってから焦り始める、という典型的なケースでした。

金額の問題ではなく、どうしてあの時あんなことをしてしまったのか、という後悔は本当に先に立ちません。繰り返しになりますが、身に覚えがある書き込みなのであれば、その行為によって確かに相手を傷つけたわけですから、できるかぎり真摯な対応を行い、誠心誠意謝罪をして、自分自身の過ちを深く反省していただきたいです。


今回は、書き込みをしてしまったらどんなことが起きるのか、という視点で書かせていただきました。書き込みをするときは、「その言葉は本当に発言してもいいものなのか」「自分のことを知っている人に対して、面と向かって言えるようなことなのか」を考え、匿名空間だからと言って、面と向かって言えないようなことをいう事は、控えて欲しいです。

なお、インターネットは、何を見るか、誰とコミュニケーションをとるかを自分で選択することができます。あえてネガティブな書き込みをするために、好ましくない記事や好ましくない人に接触することはやめて、ポジティブな表現をしたいと思えることにだけに接触するようにしてはどうでしょうか? そうすることで、「ある日突然、訴えられるかもしれない」という負い目を感じることもありませんし、ご自身にとってもきっと毎日が幸せになるのではないでしょうか?

© 株式会社マネーフォワード