旧グラバー「住宅」英語名には「Office」 バークガフニ氏異論「外国人に誤解与える」

地図では旧グラバー住宅の英語表記が「Glover House and Office」となっている=長崎市南山手町

 今年築160年を迎えた長崎市南山手町の国指定重要文化財「旧グラバー住宅」(グラバー園内)について、同園のブライアン・バークガフニ名誉園長が、ある問題の提起を続けている。世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産としての英語名は「Glover House and Office(グラバー住宅と事務所)」と日本語と異なっているが、「グラバー住宅が『事務所』だったことはなく、日本語が分からない外国人にも誤解を与えている」というのだ。なぜこうなったのか? 経緯を取材した。
 旧グラバー住宅は幕末の長崎で活躍した英国人貿易商トーマス・ブレイク・グラバーが1863年に建設。現存する国内最古の木造洋風建築として国の重要文化財に指定されている。
 2015年の世界文化遺産登録では、幕末の維新志士たちに西洋技術の情報や武器を供給し、石炭・造船関連の事業化に携わって日本の近代化に貢献したグラバーの活動拠点として、構成23施設(長崎など8県)の一つに数えられた。
 バークガフニ氏によると、英語名の相違に気付いたのは15年7月、登録が決まったドイツでの世界遺産委員会直後。同月下旬、長崎市で登録記念シンポジウムに出席した際、同席した世界遺産登録の推進団体・産業遺産国民会議の加藤康子専務理事にこの点を質した。加藤氏は「住宅だけでは世界遺産との関連性がないので世界遺産登録が難しい」と説明したという。
 現在、内閣府が産業革命遺産の全体像を説明するため公開している産業遺産情報センター(東京)のセンター長を務める加藤氏に話を聞いた。加藤氏は「登録時に住宅を(構成資産に)入れるかどうかで議論があった」と明かす。
 産業革命遺産は元々「九州・山口の近代化産業遺産」として08年に世界遺産登録を目指す国の暫定リストに登録。当時の構成資産には旧グラバー住宅以外に「旧高取家住宅」(佐賀県)「旧伊藤伝右衛門邸」(福岡県)といった「住宅」も含まれていたが、その後国内外の専門家らによる検討の結果、09年に旧グラバー住宅以外の2件が資産から外れた経緯がある。
 加藤氏は「長崎エリアでは三菱とゆかりのある遺産群の中で、ユネスコの基準を満たす資産が構成資産に選ばれた。旧グラバー住宅も外せという意見も複数あった中で、単なる住宅ではなく、技術の交流拠点として位置付けることによって明確に役割を示した」と強調する。
 これに対し、バークガフニ氏は「旧グラバー住宅が商品の展示場や事務所だった証拠はない」と反論。 これに対し、バークガフニ氏は「旧グラバー住宅が商品の展示場や事務所だった証拠はない」と反論。長崎新聞で連載していたコラムで15年と22年にこの問題を取り上げた。取材に「日本語と英語の名称は一致させるべきだ。長崎の貴重な歴史遺産であり、(時間がたっても)看過できない」と語った。

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