「うまー」立ち飲みの楽しさ満載 明石・魚の棚「たなか酒店」女将がレシピ本 食材重視の60品超

立ち吞みたなかに立つ田中裕子さん=明石市本町1

 兵庫県明石市・魚の棚商店街にある「たなか酒店」。その左の通路の奥、「立ち吞(の)みたなか」は、日々酒と料理を求める人でにぎわう。同店の料理を考えるたなか酒店の女将(おかみ)、田中裕子さん(53)がレシピ本「たなか屋の絶品つまみ」を出版した。「ただのレシピ本ではなく、店の楽しさが伝わる一冊になった」と話す。(領五菜月)

 立ち吞みたなかは夫の両親から2003年に引き継いだ。先代は乾き物中心だったが、楽しくおいしく飲んでもらうために、本格的に料理を研究した。当時子どもたちは幼く、一緒に過ごす時間を犠牲にしているという葛藤もあった。それでも、客が「うまー」と言いながら食事を楽しむ姿を見て「この空間をつくれる、なんてすてきな仕事だろう」と、頑張りの原動力となった。

 料理は、食材一つ一つを吟味して作る。魚は近海でとれた「前もん」を、野菜は車で30分かけ仕入れる。選ぶのは旬のものばかりで、南蛮漬けは季節によって使う材料を変える。調味料は味見を重ねて選んだ。良いものを食べてもらおうと、メニューを考えて食材を選ぶのではなく食材を選んでからメニューを決める。「開店当初はオープンまでに決められない夢を何度も見ました」と笑う。

 目指しているのは「家でできるかもと思ってもらえるような、家庭料理に少し手を加えた料理」と話す。客にレシピを聞かれる事が多く、その度に口頭で教えていた。教えることに抵抗はなく、レシピ本出版の誘いを受けたときも、迷うことなく承諾した。定番の「すじこん」「ポテトサラダ」から酒かすを使った一皿など60品以上を収めた。

 コロナ禍で店が開けられなかった時は、総菜のテイクアウトをした。久しぶりに開店した際には、「テイクアウトもおいしいけど、やっぱりここに来るのとは違う」と笑顔で料理を楽しむ人や、「久しぶりや」と涙ぐむ人もいたという。田中さんは「店を大切な場所と思ってくれているのが伝わり本当にうれしかった」と振り返る。

 現在は、2019年にオープンした居酒屋「まある笑店」のキッチンに立ち、まある笑店が休みの日には立ち吞み店のキッチンに立つ忙しい毎日を送る。

 レシピ本をきっかけに県外から訪れる人も増えたという。田中さんは「ただレシピを載せるだけではなく、たなかがどんな店か分かる本になっている。楽しそうやな、と思ってもらえたらうれしい」と話す。

 本はA5判128ページ、1760円。ジュンク堂明石店などで買える。立ち吞みたなかTEL078.912.2218

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