社説:性別変更裁判 人権守る法の見直しを

 多様性を認める社会に向け、議論を深める契機とすべきだろう。

 心と体の性が合わない人が戸籍上の性別を変える場合、生殖能力をなくす手術を事実上の要件とする性同一性障害特例法の規定について、最高裁大法廷が裁判官15人全員一致で「憲法違反」とする決定を出した。

 LGBTなど性的少数者の権利に関して、初めて法令を違憲と判断した点で画期的といえよう。特例法の改正に向け、国会は速やかに議論しなければならない。

 今回の決定では、精巣や卵巣の摘出が必要となる生殖能力要件について、性別変更に当たり手術を受けるか、変更を断念するか「過酷な二者択一を迫っている」と指摘。個人の尊重を定めた憲法13条に違反し、「身体への侵襲を受けない自由」を制約するとした。

 国内では法施行後の性別変更が1万人を超え、性別に起因する人権侵害を禁じる条例が京都など地方自治体で広がっている。

 2014年には世界保健機関(WHO)などが生殖能力要件の廃絶を求め、欧米に浸透した。こうした国内外の変化を考慮したとみられる。

 最高裁は19年の決定で生殖能力要件に関して「現時点では合憲」としていた。4年で判断を変更し、これまで11例しかなかった法令の違憲判断に踏み込んだのは異例といえる。

 一方、特例法で手術を求めるもう一つの規定となっている外観要件については、高裁での再審理を命じた。

 要件は「変更後の性別の性器部分に似た外観を備える」としている。この要件が残ると、男性で生まれた人が女性に変更したい場合などで、手術が必要とされる。懸念は京都の当事者からも出ており、課題を積み残した。

 今年6月にはLGBT理解増進法が制定されたが、自民党の保守派議員が公衆の浴場やトイレでのトラブルが懸念されるとして、周囲への配慮を求める条文に後退させた経過がある。

 今回の最高裁決定では、外観要件に関して「社会生活上の混乱が生じることは極めてまれ」との個別意見が付されたことも重く受け止めるべきだ。

 特例法は04年の施行以来、性別変更5要件のうち「子なし要件」を改めた以外に大きく修正されていない。

 法改正では、生殖能力要件にとどまらず、性別を巡る苦悩を「障害」と呼ぶ法の考え方を含め、抜本的な議論を求めたい。

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