右折車“起訴後”に直進バイクの「赤信号無視」発覚も…検察の「公判続行」に批判集まる 福岡地裁の判決は?

防犯カメラの映像を解析したところ、バイク側の「赤信号無視」が確認できたという(masa / PIXTA)

福岡県古賀市内を走る国道で、ナイジェリア国籍の50代男性が交差点を車で右折中、対向車線から赤信号を無視して直進してきたバイクとぶつかり、自動車運転処罰法違反(過失致傷)などに問われた裁判について、福岡地裁は27日、男性に無罪判決を言い渡した。

検察が「赤信号無視」把握しないまま起訴

この裁判が注目された最大の理由は、検察がバイク側の赤信号無視を把握しないまま男性を起訴したこと。毎日新聞の報道によれば、検察は車を運転していた男性の弁護人から指摘を受けたことでこの事実を把握したというが、それでも起訴を取り消さず「赤信号であっても、車の死角から交差点へ飛び出してくる車両がいないか注意すべきだった」として公判を続けた。

事故当時の状況。バイク側の車線には図のように「渋滞停止車両」があった(報道をもとに弁護士JP編集部作成)

これについて、交通事故に詳しい外口孝久弁護士は「車側の過失を成立させるには、車側に予見可能性、結果回避可能性があったと言えなければいけない」と、その“事情”について指摘する。

「もしバイクが交差点に進入した際の信号が黄色だったら、

車の対向車線に渋滞停止車両(上図参照)があって見通しが困難だった

車が慎重に右折していればバイクがすり抜けて来ることも予見できた

それなのに車は注意を怠った

として、車側に予見可能性、結果回避可能性があったと言うことができます。

しかし今回は、起訴後に出てきた証拠によって、バイクが赤信号で交差点に進入した事実を争えなくなってしまった。だから、検察は『仮に赤信号であったとしても、これを無視して交差点に突っ込んでくる車両がいる可能性もある』と主張を変えざるを得なかったのではないでしょうか」

一般的に「赤信号を無視して交差点に進入してくる車両」の予見可能性について争われることはめったにないという。

「日本の裁判は『起訴されれば99.9%が有罪になる』と言われているように、検察は通常、確実に有罪の心証を取れる場合にしか起訴しません。そういう意味でも、今回もし検察が最初からバイク側の赤信号無視を把握していれば、車の男性を起訴しなかったのではないかと思います」(外口弁護士)

すぐに警察を呼んでいれば…

この事故において、車側の男性に落ち度があったとすれば「事故後、直ちに警察に申告しなかったこと」だろう。

実際、男性は裁判で「自動車運転処罰法違反(過失致傷)」のほか「道路交通法違反(不申告)」にも問われた。

「事故を起こした場合、その場で直ちに警察へ申告することは当然求められます。もし今回すぐに警察を呼んで、バイクが赤信号無視で交差点に進入してきたと訴えることができていたら、適切な捜査がなされて不起訴となった可能性が高かったのではないでしょうか。

しかし、今回は車を運転していたのがナイジェリア国籍の方だったということで、彼が日本の道交法についてどれくらい理解していたか、日本の警察・検察とどこまで意思疎通できていたかは分かりません。

であればこそ、警察・検察はしっかり客観的な証拠にあたって、バイク側の主張が本当に正しいのかを確認しなければならなかったはずですが、それを怠った結果として、公判中にバイク側の主張とは違った証拠が出てきてしまったのだと思います」(外口弁護士)

今回は無罪になったが…

冒頭のように、福岡地裁は27日、車側の男性に対し無罪判決を言い渡した。

「もし今回の判例で自動車運転処罰法違反(過失致傷)の有罪が確定していたら、警察・検察は『赤信号を無視して交差点に突っ込んだような、直進車の過失がかなり大きい類型の事故でも有罪にし得る』という前例を得たことになってしまうので、今後同じような事案が発生した場合、起訴に前向きにならざるを得なくなった可能性があったと思います。

今回は無罪となりましたが、過去の民事上の裁判例では直進車が赤信号を無視して交差点に進入したとしても、過失割合が直進車(10):右折車(0)とはならなかったケースもあるため、たとえ対向車線が赤信号だったとしても、右折車は直進車の動向を注視する必要があるとは言えるでしょう」(外口弁護士)

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