医師は心臓破裂で死亡…母他界で絶望した息子が発砲「殺意ない」 同行職員は肝損傷で重傷「誤射や威嚇射撃だった」 母の治療が不適切だと思い込み、銃撃し立てこもった息子が法廷へ スプレー噴射は認めるも、銃は「しっかり構えられず予想外」

さいたま地裁=さいたま市浦和区高砂

 埼玉県ふじみ野市の住宅で昨年1月、医師=当時(44)=が散弾銃で射殺されるなど訪問していた医療関係者3人が死傷した立てこもり事件で、殺人や殺人未遂の罪などに問われた、住人の無職の男(67)の裁判員裁判の初公判が26日、さいたま地裁(小池健治裁判長)で開かれた。男告は1件の殺人罪と2件の殺人未遂罪について、いずれも「殺意は全くありませんでした」と起訴内容を一部否認した。

 起訴状などによると、男は昨年1月27日、自宅で散弾銃を発砲して医師を心臓破裂で死亡させ、理学療法士の男性=当時(41)=に肝損傷などの重傷を負わせた。さらに、医療相談員の男性=同(32)=に催涙スプレーを放ち、路上にいた医療相談員の男性=同(42)=に別の散弾銃を放って殺害しようとしたとされる。

 犯行後、医師を人質に約11時間、自宅に立てこもり、翌朝に突入した県警に逮捕された。

 男は罪状認否でスプレーをかけた傷害罪は認めたものの、殺人と殺人未遂罪の殺意を否定。医師を射殺した殺人罪については「大けがをさせようと右膝あたりを狙ったが、レミントンをしっかり構えておらず、引き金を引いた反動で予想外の場所に当たってしまった」と手にしたメモ紙を読み上げた。

 検察側は冒頭陳述で、前日に死亡した被告の母親について「(医師らが)不十分で不適切な治療しかしなかったので死亡したと一方的に思い込んだ。母の死に絶望して自殺しようとしたが、強い怒りと恨みで道連れに殺害することを決意した」と経緯を述べた。事件当日の朝に男が医師や理学療法士ら4人の、これまでの対応を非難する直筆のメモを作成していたことを明らかにした。

 弁護側は、母親の蘇生措置を断られたことで医師に大けがをさせようと散弾銃を取り出したと指摘。「壁に接する場所で通常の射撃態勢が取れなかった。反作用の強いスラッグ弾で強い反動を受けて銃身が上ずり、胸部に命中させてしまった」と傷害致死罪の成立が相当とし、ほかの2発に関しても誤射や威嚇射撃だったと主張した。

 裁判は医師らへの殺意の有無が争点で、判決は12月12日の予定。

■ふじみ野散弾銃立てこもり事件

 2022年1月27日午後9時ごろ、ふじみ野市大井武蔵野の住宅で、住民の無職の男に、訪れた医師らが散弾銃で撃たれるなどして死傷した。胸部を撃たれた医師が死亡し、男性理学療法士は重傷。さらに男性医療相談員が催涙スプレーを噴射されて負傷し、別の男性医療相談員には別の散弾銃を放った。その後、男は医師を人質に約11時間立てこもった末に県警に逮捕され、医師への殺人容疑で送検された。さいたま地検は22年3月3日から男の刑事責任能力の有無を調べる鑑定留置を約3カ月実施。同年7月1日に殺人や殺人未遂の罪などで起訴した。

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