医師死亡…死去した母に心臓マッサージせず「よって断ずる」とメモした息子発砲 焼香台の近くに散乱した聴診器、割れた眼鏡…息子が殺意否認、法廷でメモを凝視 発砲前に銃の暴発について、業者に問い合わせていたことが判明

立てこもり現場付近を調べる県警の捜査員ら=2022年1月29日午後1時すぎ、ふじみ野市大井武蔵野

 さいたま地裁で26日、埼玉県ふじみ野立てこもり事件の初公判が開かれた。殺人や殺人未遂の罪に問われた無職の男(67)は「殺意はない。右膝を狙った」と殺意を否認した。一方、検察側は証拠開示で、男は殺害された医師らの対応不備で母親が亡くなったと非難し、「よって断ずる」と記した直筆のメモの存在を明かした。

 検察側によると、メモ紙は事件当日の昨年1月27日朝に作成された。逮捕直後の男の自宅1階の洋間で発見され、周囲にはベッドで亡くなった状態の男の母親や焼香台、殺害された医師や聴診器、割れた眼鏡などが散乱していた。

 メモ紙の1枚目は医師、2枚目は理学療法士ら3人について言及したものだった。これまでの診療や対応の不備を非難し「母はドクターに殺されたも同然」「(母に対して)心臓マッサージしようとしなかった。要求したのに」「対応が母の障害になっていた」などと書きつづり、最後には共通して「よって断ずる」と締めくくった。

 3枚目は男本人に関するもので、書き出しで母親が医師らの対応不備によって亡くなったことへの恨みを強調。「自害して早くあの世で母に会いたい」「生きていても母の思い出ばかり」などと失意を吐露し、「私は万死に値するばかな人間である」とした。

 読み上げ終わると、検事は証言台に立つ男にメモを見せて「誰が書いたか分かりますか」と質問。男はメモに顔を近づけてしばらく凝視した後、重い口調で「私です」と答えた。

 検察側は男が同日午後、所有していた散弾銃を発砲する際、暴発の危険性を業者に問い合わせていたことにも触れ、「母親の死に絶望し、自殺の道連れに医師らを殺害しようと決意した」と主張した。

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