星への旅を誘い1世紀 プラネタリウム誕生100年「国産第1号」ゆかりの京都で特別展

青少年科学センター職員でもあった故江上賢三さんが自作した「江上式プラネタリウム」(京都市伏見区)

 近代的なプラネタリウムがドイツで誕生してから21日で100年を迎えた。全国的にも珍しくオリジナル番組の制作と生解説を行っている京都市青少年科学センター(京都市伏見区)では来年1月まで記念番組を投影し、“国産第1号”とも言われる京都ゆかりの「江上式プラネタリウム」の実物も展示する。

 夜空に浮かぶ星々を投影機でドームに映し出すプラネタリウムは、ドイツのカール・ツァイス社によって発明され、1923年10月21日にドイツ博物館で関係者向けに試験公開された。

 再現された星空を見た人たちは同社の開発拠点の地名にちなみ「イエナの驚異」と絶賛したという。日本では37年に大阪の科学館に初めて導入され、子どもたちが宇宙に親しむ教育施設として普及した。現在は国内で約300施設が稼働しており、世界で米国に次ぐプラネタリウム大国だ。

 京都市青少年科学センター(京都市伏見区)のプラネタリウムは1969年の開館時から稼働しており、現在4代目。国内でも珍しい馬蹄型(U字型)の座席配列で、中央で投影する職員が来館者と向き合いながら機械を操作できる仕様になっている。

■稼働半世紀超「英知の結晶。魅力知って」

 星空を緻密に表現する光学式1機と映像の自由度が高いデジタル2機の計3種類を所有し、状況などに応じて使い分けている。100周年記念番組「大宇宙をつめこんで」は、プラネタリウムの発展の歴史を紹介したり時間や空間を超えた宇宙の旅が楽しめたりする。

 また、京都とプラネタリウムには浅からぬ縁もある。高価なドイツ製の輸入品しかなかった昭和初期、京都の教員だった故江上賢三さんが子どもたちに身近に宇宙の神秘に触れてもらおうと、ブリキ缶などを使って平面に星座を映す装置を42年に自作した。

 江上さんの装置は日本のプラネタリウム黎明(れいめい)期において「国産初」と称されることも多く、改良を重ねたうえで戦後に島津製作所から製品化された。「江上式プラネタリウム」とされる同製品は全国に出荷され、小型で持ち運び可能なことから移動天文教室として親しまれた。

 江上式プラネタリウムの展示を含む記念特別展では、100年の歴史をたどる年表や歴代の投影機なども並べる。担当者は「プラネタリウムは人類の英知の結晶。魅力を知ってより身近に感じてもらえたら」と話している。特別展はセンター入場料のみで観覧可。プラネタリウムは別途料金が必要。

■プラ寝たリウム・アニメ上映… 自治体運営 収益性低く廃止も 星だけじゃない楽しみ方模索

 国内のプラネタリウムは自治体が運営している場合が多く、財政事情から休止や廃止に追い込まれたケースもある。利用者の裾野を広げるため、近年では星を眺めるだけの場所にとどまらずコンサートや人気アニメを取り入れるなど工夫を凝らす施設も増えている。

 日本プラネタリウム協議会によると、全国のプラネタリウム施設の9割以上が自治体を設置母体とするという。機械の維持管理などに費用がかさむ一方、収益性の高い事業ではないため、行財政改革の一環で廃止する施設も出てきている。

 京都府内では、1980年代にあった国の「ふるさと創生事業」交付金を活用して、加茂町(現木津川市)と向日市にプラネタリウムを備えた施設がいずれも93年にオープンした。だが、加茂プラネタリウム館は2018年に閉館、向日市天文館も一時は「休止・廃止の方向で検討」とされ、以降は予算が縮小されるなどプラネタリウムを取り巻く環境は厳しい。

 新たな発想でファンを開拓する取り組みを進める施設もある。府内最大規模のプラネタリウムがある文化パルク城陽(城陽市)では、満天の星の下で眠る「熟睡プラ寝たリウム」のほか、アニメ映画を楽しむ上映会や絵本の読み聞かせ、コンサート、ヨガなど多彩なイベントを実施する。

 京都市青少年科学センターでも「子どもの情操教育に利用したい」などの多様なニーズに対応しようと、昨秋にプログラムを改編。一部を「やさしいプラネタリウム」として、キャラクターが登場してせりふを話すほか、投影中の会話や入退場も認められている。100年という長い歴史を経て「静かに見る」だけだったプラネタリウムの楽しみ方が多様化したと言えるだろう。

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